シューベルト:劇付随音楽「ロザムンデ」より
第3幕への間奏曲/バレエ音楽第2番

フランツ・シューベルト(1797 - 1828)   『キプロスの女王ロザムンデ』   ヘルミーナ・フォン・シェジー(1783-1856) 


 1823年12月20日にウィーンで初演された『キプロスの女王ロザムンデ』という劇(全4幕)のために、当時26才(といっても死の5年前だからすでに晩年?)のシューベルトが書いた作品です。

 ヘルミーナ・フォン・シェジーという女流作家が台本を書いたのですが、この人、わずか2か月前にウェーバー作曲の「オイリュアンテ」で大失敗をし、名誉挽回のために急遽新作を上演することにして、速筆では定評のあるシューベルトに音楽を依頼したのでした。でもこちらも初演の評判はペケ、わずか2回の上演で打ち切り。2作品とも音楽だけは名作として現代に生き残っているところを見ると、残念ながら戯曲作家としての才能には恵まれていなかったようです。

 上記のような事情で台本も残っていないのですが、当時の新聞記事などから大体のストーリーを推察すると、

 キプロス王の娘ロザムンデは、訳あって幼少より貧しい未亡人のもとで育つが、18才の時に正当な王位継承者として紹介される。時の統治者は権力を維持するために結婚をせまったり毒殺を試みたりするが、一人の好青年が登場してロザムンデを救う。実はこの青年は幼少の時に定められた彼女の許婚の王子様だった。めでたし、めでたし。

という、少女漫画も赤面するであろう安易な設定のものだったようです。しかし10曲の付随音楽は、波乱万丈の筋書に反して素朴で牧歌的なものが多く、大都市ウィーンで上演された割には、田舎芝居的な微笑ましさを感じさせます。シューベルトのお人柄でしょうか。

 本日演奏するのは最も有名な2曲で、美しい間奏曲は育ての親である未亡人との再開シーンの前に、バレエ音楽はハッピーエンドの、おそらくは結婚式シーンに演奏されたものと思われます。間奏曲のテーマはシューベルト自身お気に入りだったようで、ピアノ曲や弦楽四重奏にも使用されていますから、どこかできいたことがある、と思われるかもしれません。

(第33回定期演奏会プログラム掲載 FL Miu)



初演: 1823年12月20日、ウィーン『キプロスの女王ロザムンデ』
台本: ヘルミーナ・フォン・シェジー(Helmina von Chezy)- ウェーバーの『オイリアンテ』の作者でもあります。

 劇は不評で、初演の翌日第2回目の公演があったが、それが最後だったと言われている。その後出版もされず忘れ去られたが、シューベルトの付けた音楽は好意的に受け入れらました。作曲の時間は極めて短期間しかなく、シューベルトが台本を貰ったのが1823年の11月23日という記録もあり、当時は5日間で書き上げたとの噂もありました。

 結局、序曲を作曲する時間は無く、初演時には、1822年に書いたオペラ『アルフォンゾとエストレラ』(D.732)の序曲を転用しました。現在『ロザムンデ序曲』として演奏される曲は、1820年に作曲された『魔法の竪琴』序曲(D.644)です。生前シューベルトはこの『魔法の竪琴』をピアノ・デュオ用に編曲して『ロザンムンデ序曲』と名付けているところから、後にこちらの方が序曲にふさわしいと考えたようです。しかし、こちらを序曲として劇が再演されることはシューベルトの存命中にはありませんでした。シューベルトの死後1843年になって前述のピアノデュオ譜が出版され、また原曲は演奏会で『ロザムンデ序曲』として演奏されるようになりました。

 時間が逼迫していたために、転用は序曲だけでなく他の曲も及んでいました。この劇のために書かれた音楽は全10曲ですが、このうち、半分の5曲は他の曲からの転用とみられている。たとえば、第1幕への間奏曲は『未完成交響曲』(1822年作曲)の第4楽章とすることを意図して書かれたものを転用したとの説があり、ピアノスコアが残る第3楽章を後世の学者がオーケストレーションし、それに第4楽章としてこの第1幕への間奏曲を加えた『未完成交響曲』の完成版がかつてレコード化されていた。また、第3幕への間奏曲の有名な旋律は初期の歌曲(『悩む男』D432a)をオリジナルとしています。丁度この頃この曲を弦楽四重奏(1824年2月)の第2楽章、それにピアノのための間奏曲にも使うことを思い付きましたが、これらは『ロザムンデ』の作曲依頼を受けた時点ですでに出来上がっていた可能性もあり、どちらが先なのかはよくわかっていません。音楽は間奏曲とバレエに付けられた音楽が中心ですが、妖精の合唱、狩人の合唱のような合唱曲もあり、これらは当時から人気のあったウェーバーの歌劇『魔弾の射手』の影響があったと思われます。



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