ダール博士の治療内容については、ラフマニノフ本人の言葉と周囲の人たちの証言で、ダール博士自身の言葉はありません。医師としての倫理的義務として口をつぐんでいると思われます。ということは、治療内容は実際のところは正確にはわかっていないということになります。ラフマニノフの伝記のすべてにおいてもそういった証言だけで、医学的な見解については一切記述されていません。事実としてはっきりしているのは、ラフマニノフがある期間ダール博士のもとに訪れ、ピアノ協奏曲第2番を献呈したということだけです。ここで、ダール博士の治療に関する考察を行なったエルガー・ニールスの Nikolai Dahl's cure - good luck or good practising? Reconstructing Rachmaninoff's case の抄訳を紹介します。