メンデルスゾーン : 付随音楽『真夏の夜の夢』序曲

 1826年、シェクスピアの戯曲を読んだメンデルスゾーンは同年の夏、その印象を音楽にしました。その時、メンデルスゾーンはベルリン大学に入学したばかりの17歳。人生の中でも最も多感であろうと思われる時期にひと夏を集中してこの序曲を完成させたと言われています。

 メンデルスゾーンは芸術家としては珍しく恵まれた生涯を送った人でした。ロマン派特有の激しく燃焼するような劇的なものには欠けていますが、その裕福な生活から来る円満な人格と幅広い教養は音楽に詩的な表現を与え,常に清浄な明るさに満ちた旋律を生み出しました。

 この序曲にもその特色は余すところなく表現されており、充実した構成と見事なオーケストレーションが若々しい明快な響きを支えています。

 曲は2/2拍子、ホ長調で厳格なソナタ形式に従って作られました。木管の清らかな和音で導入される提示部では、弦楽器の細やかな動きで第1主題が奏でられ、管楽器による神秘的な和音がわけ入って幻想的な雰囲気を高めます。突然、陽が射したように堂々とした明るい行進曲風の旋律が登場した後、下降音階に基づく夢見るような第二主題が穏やかに歌われます。この後、華やかなファンファーレを伴ったクライマックスを経て展開部に入ります。ここでは第一主題を発展させた爪立つような繊細な音の動きが魅惑的で、森の暗闇、妖精たちの出没と物語の奥深くへと引き込まれます。再現部からコーダにかけて再び寂しげな森の中に音楽が融け入り、冒頭部と同じ木管の和音で秘やかに曲が終わります。

 この曲は当初はピアノ2重奏用に書かれたもので、その後に管弦楽用に編曲されました。初演はメンデルスゾーン家のベルリンの大邸宅にしつらえられた数百人を収容する大ホールで行われたとされています。
1840年に初めてロンドンでシェクスピア劇上演の序曲として演奏された後、プロシア国王の要請により、メンデルスゾーンは「真夏の夜の夢」のための付帯音楽を作曲することになり、序曲をもとに更に12曲を書きました。序曲作曲から17年を経ていたにも拘わらず、これらの劇中音楽は違和感なく音楽的に統一されており、現在ではこれら13曲が劇上演時の音楽として使われています。

 (FL:Sachiko)

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