マスネ : 組曲 『絵のような風景』

          
 マスネ(1842-1912)は、30曲近いオペラを残したフランスの作曲家で、パリ音楽院の教授を永くつとめたことでも知られています。門下生にはシャルパンティエ、シュミット、ケックラン、ショーソン等がいますが、所謂保守派と目され、サン=サーンス等国民音楽協会からは攻撃の的となっていました。

 オペラ以外には、200曲に及ぶ歌曲の他、管弦楽、協奏曲、室内楽、ピアノ曲と、毎朝5時に起きて作曲作業をしていただけあってか、作品のジャンルは多岐に渡っています。しかし、知られている作品と言えば「タイスの瞑想」(実は歌劇『タイス』の中の1曲であることをご存知な方も少ない・・)くらいでオペラの『マノン』、『ル=シッド』、『ウェルテル』の中の幾つかのアリアの他はあまり聴く機会はありません(もっとも昨年(1995年)はウィーンをはじめヨーロッパの幾つかのオペラハウスで、歌劇『エロディアード』が上演されてCDも2種類リリースされましたが・・)。

 マスネの『マノン』よりプッチーニの『マノン・レスコー』の方が有名ですし、『エロディアード』ともなるとR.シュトラウスの『サロメ』と比較されることも少ないほど知名度は低く(エロディアードはサロメの母親で、R.シュトラウスではヘロディアスと発音。共に同じ題材に元づいています。)、『シンデレラ』というオペラを作曲していることもロッシーニ、プロコフィエフと共には語られないという、何とも気の毒な作曲家です。

 さて、この『絵のような風景』は、マスネが残した8曲の組曲の4番目の作品です。この他に、『・・の風景』と題する曲は5曲あり、それぞれ特徴ある作品となっています。この『絵のような風景』は次の4曲からなります。

『絵のような風景』   Scenes pittoresques (1873 年初演)
1. 行進曲   Marche
2. 舞踏曲   Air de ballet
3. お告げの鐘 Angelus
4. ジプシーの祭り Fete Boheme

 4曲ともその名の通りの描写音楽で、目の前に情景がごく自然に浮かんできます。『絵のような・・』を今風に言えば『映画の中のワンシーン』でしょうか。映画やドラマにはストーリーとはあまり関係はないけれども、その舞台となる土地の行事や歌、踊り、名物等を織り込むシーンがよくあり、観終わった後も意外と印象に残ったりします。この曲には名旋律があるわけではないけれど、色彩感が豊富で聴き手の想像力を刺激するところが、どこか映画に通じるような気がします。『映画音楽』とも称されるラフマニノフの交響曲第2番の前プロに選ばれるとは偶然でしょうか。

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