ガーシュイン:オー・ケイ!

1960年リヴァイヴァル録音    ガーシュイン
作品と時代背景

 ジョージ・ガーシュウィンの37作目のミュージカル「Oh, Kay!」は1926年ニューヨークのインペリアル劇場で初演され、ガーシュインのミュージカルとしてはこれまでで最長の興行となりました(256回)。1926年はアメリカで禁酒法が施行されてすでに6年。その結果アメリカでは直ちにもぐりの酒場が出現します。女性達は公認のバーでも立ち入り禁止になっていたのにかかわらず、もぐりの酒場に頻繁に集まり、そこに屯すことが流行にもなった、そんな時代でした。酒の密輸も横行し、台本作家ボルトンとウッドハウスが題材にそれを使用したことは決して珍しいことではありませんでした。

 このミュージカルは金に困ったイギリスの貴族とその妹ケイの話です。第一次大戦後、不運続きのケイと兄は最後の財産であるヨットに乗ってアメリカに渡り、それを使って酒の密輸を企てます。二人は禁酒法取締官に追われ、ジミー・ウィンターの広大な屋敷に逃げ込みます。以前、溺れそうになったジミーをケイが助けたことがあったこともあって、ケイはジミーに恋をし、ドタバタ込み入った話が絡みますが、最後は丸く収まり、ケイとジミーは結ばれる、というミュージカルです。イギリスのミュージカル女優のガートルード・ローレンスがケイ役を演じました。彼女の歌はそれほど上手ではなかったそうですが、演技力は素晴らしかったとのことです。


 なお、このミュージカルの題名にもなっている主人公ケイは、実在の人物ケイ・スイフト(1897-1993)をモデルにしたとされています。彼女はわずか6歳にしてワーグナーのオペラを愛し、作曲も行った恐るべき早熟の天才で、ジュリアード音楽院の前身の音楽学校で作曲とピアノを学びました。あるパーティでアインシュタインが弾くヴァイオリンの伴奏をしたこともあったとか。しかし父親を亡くしてからはクラシック音楽の道を歩むことを断念し、クラブなどでピアノを弾いて生計をたてます。やがてガーシュインと出会い、彼の作曲のサポートをします。ところが、彼女には家庭もあり子供もいましたが、夫公認のもとで不倫の関係にあったとされます。


ケイ・スイフトとガーシュイン    ケイ・スイフト


あらすじ
【第1幕】
 幕が開くとそこはジャズ・エイジと禁酒法時代真っ只中の1926年ニューヨーク、若い女の子達にモテモテのジミー・ウィンターのロングアイランドにある家が舞台です。ジミーの留守中にその女の子達が賑やかに掃除をしているところ。そこへ英国の酒密売人デューク・ダーハムとその妹レディ・ケイ、おバカな米国人のチビ助・マッギーとラリー・ポッターが密造酒を隠すためにやってきます。しかし、じきにジミーが帰ってくると聞いて彼らは酒を隠す作業を中断し、酒を地下室から運び出すことを計画します。早速、ラリー・ポッターは若い双子の女の子と即興でダンスを始めます。

 そこへ禁酒法取締官ジャンセンがやってきて、何か良からぬことを企んでいないか探っています。彼が去るとジミーが2番目の妻コンスタンツェを連れて帰ってきます。無愛想で横柄な彼女はジミーと婚約したばかり。ジミーの最初の妻とは何年も別居状態で、ジミーは結婚の無効を申請している最中でした。密造人達はマッギーを残して引き揚げ、マッギーはこの屋敷の執事になりすまして隠した酒を守ることにします。

 ジミーは弁護士から結婚の無効を申請がまだ完了していない内容の電報を受け取ります。まだ結婚が違法であることを知ったコンスタンツェは怒り狂って近くのホテルへ行ってしまいます。ジミーは執事に化けたマッギーに、昨夏自分が溺れかけたときに助けてくれた美しい女性の話をします。そこへ掃除を終えた女性たちが賑やかに入ってきますがやがて皆去り、ジミーはベッドに入る用意をします。


オリジナル・プロダクション ケイ役のガートルード・ローレンス    ガートルード・ローレンス


 外は嵐になっていました。そこへ取締官に追われたレディ・ケイが防水着で身を固め拳銃を片手にジミーの家に入ってきます。ジミーを一目見たケイは、彼は自分が昨年助けた男であることを思い出します。取締官ジャンセンが駆けつけるとジミーは彼女をベッドルームに隠します。二人がいるところをジャンセンに見られたケイは咄嗟にジミーの妻だとジャンセンに告げてジャンセンを追い返します。嵐のため外に出られないケイはやむなくジミーの家に泊まることにします。ここで歌われるデュエットが "Maybe" です。ケイの歌に途中からジミーが合いの手を入れます。


ケイ:
今日は憂鬱な日で明日もそうだけど、
いつか心配事が全部消えてしまう日が来るわ。
幸せはなかなか来ないけど、待たなきゃね。
イライラすることはないわ。夢はいくらでも自由なのだから・・・。
早いか、遅いか−Maybe,
もし待てば−Maybe,
どこか運命的な−Maybe, (以下略)

翌朝、デュークとラリー・ポッターはケイを探しにジミーの家にやってきます。
そこへ若い女性達も加わり、ラリー・ポッターはミンストレル・スタイルの歌と
踊りで皆をリードします("Clap Yo' Hands" )。「手を叩こう、足(太もも)
を叩こう、ハレルヤ!」と元気一杯に歌って踊ります。この間、ケイはジミー
のベッドルームに隠れていましたが、再び取締官がやって来るので、ジミー
とケイは新婚の振りをして "Do, Do, Do" を歌います。

ジミー: 僕はあの素敵なキスで舞い上がったのを憶えているよ。
    男の子にとってこんなに嬉しいことは他にないよ、絶対逃せないね。
ケイ: よく憶えているわ、素敵な夜だったわ。
ジミー: ああ、お願いだから もう一度キスしてくれたらなぁ、ああ・・
Do, Do, Do, 君が前に、Done, Done, Doneしたことを、ベイビー
Do, Do, Do, 僕が、Do, Do, Do, してほしいことを、ベイビー
もう一度やってみようよ、ため息つこうよ、もう一度天に昇ろうよ、・・・(以下略)


 やがて、ジミーの離婚申告が受理された知らせを持ってコンスタンツェ、彼女の父親、判事アップルトンが現れます。ケイは再びベッドルームに隠れます。判事は午後にも正式な結婚式を挙げようと言い出します。コンスタンツェはベッドルーム内からの物音に気づきドアを開けると、ケイが英国のメイドの恰好をしていて、マッギーが化けている執事の妻だと自己紹介をします。この時既にケイにはジミーへの恋心が芽生えていて、コンスタンツェとジミーの結婚をなんとしても阻止しようと心に決めるのでした。


オリジナル・プロダクション    オリジナル・プロダクション

 
【第2幕】
 ふたりの結婚写真も撮影れ終え、いよいよ式が迫ってきます。ケイはなんとかジミーを振り向かせて、気難しいコンスタンツェより自分の方が妻として相応しいことをわかってもらいたいと、手にした古びた人形に向かって歌います。ガーシュインの代表作であるのみならず、ジャズ・ソングの中でも屈指の名曲と知られる "Someone to Watch Over Me" です。


昔から恋は盲目と言うわね。よくこうも言うわ「求めよ、さらば与えられん」と。
ずっと心に描いていた彼氏を、あたしはこれから探しに行くのよ。
でもどこを探しても、まだその人は見つけられないの。
きっと大恋愛になるわ、一生忘れることができないような・・・
その人にまだ会えていないことが、ただひとつ心残りなの。
彼のイニシャルを私のそれに入れたいわ
ねぇ、教えて、迷える子羊を見つけて守ってくれる羊飼いはどこにいるの?

あたしが逢いたくてたまらない人がいるの。
その人こそ、あたしを見守ってくれる、そんな人になってほしいわ。
あたしは森に迷い込んだ子羊。あたしはできるわ、
あたしを見守ってくれる人の前ではいい子でいることを。
人は彼のことをハンサムとは思わないかもしれないけど、
彼はあたしの心を開ける鍵を持ってきてくれるの。
お願いだから、急いで彼にあたしの願い聞いてと伝えて頂戴。
あぁ、あたしには必要なの、あたしを見守ってくれる人が。


ラリー・ポッターは密造酒を地下室から運び出すことになっていたのですが、結局は自分のダンスの腕前を披露せずにはいられません。また現れた取締官ジャンセンは、ケイがジミーの妻ではなく、執事の妻だと言ったことに首を傾げています。判事とコンスタンツェは昼食を注文します。マッギーとケイは給仕することになりますが、やったことがないために料理は次第に支離滅裂になり、判事とコンスタンツェは怒って外へ出ていきます。ジミーが登場すると、この家で若い女性達と過ごすことを "Heaven on Earth" だと歌います。


ずっと若いころに、僕は決めたのだ。何があっても君を何処へも行かせない、と。
しかも運のいいことに、これまでそうしてきた。
何かあったら僕ができること以上のことをするよ。
何か悪いことが起きた時、もし君が音を上げたら、それでさよならさ。
ここではなんとかやっていくしかないのだ。

高いところを掴んで、空をひっぱり降ろして、地上に天国を作ろう。
歌を唄えば悪くはならないさ。
どうだろう、恋をして、かけがえのないことのために生きてみないか。
おぉ、高いところを掴んで、空をひっぱり降ろして、地上に天国を作ろう!


オリジナル・プロダクション


 取締官はジミーが午後に結婚式を挙げると聞いてビックリします。昨夜妻といっしょにいるところを見ていたからです。ケイはコンスタンツェの室内着を着ることでもうメイドには見られないようにして、ケイとマッギーはケイがジミーの妻であることを取締官に信じさせようとします。二人はジミーの結婚式を中止させる計画を練ります。そこへ入ってきたジミーはコンスタンツェのガウンを着たケイを見てその美しさに見惚れてキスをします。

 結婚式が始まり判事が宣誓を読み上げると、取締官に扮装したマッギーは声を上げて制止し、地下室にアルコールを隠した罪でジミーを逮捕すると告げるのでした。ところがそこへ本物の取締官ジャンセンが到着してデュークとケイを逮捕し、ジミーを、犯人を匿った罪で告発します。さらに取締官は昨夜ケイがジミーのパジャマを着ていてジミーの妻のふりをしていたことを明かします。式の参列者は大さわぎとなり、ジミーと運命を共にしたくないコンスタンツェは早々に逃げ帰ってしまいます。酒密売人達とジミーは地下倉庫に押し込まれ、入っていた酒は外へ運び出されます。しかしそのうち、地下室の入り口に鍵がかかっていないことに気づいたので、皆は直ぐに外に出ることができました。

 その夜、ジミーは友達と酒密造人を家に招いてパーティを開きます。ジミーの友人達は皆ケイを讃えて " Oh, Kay ! You're O.K." と歌います。そこへ取締官がやってきて、実は自分は悪名高き海賊のブラックバードだと名乗り、さらに、酒を全部盗まれてしまったと悔しがります。それもそのはず、海賊のトラック運転手はマッギーとラリー・ポッターにいつの間にかすり替わっていたので、ブラックバードが盗んだ酒を難なく取り返すことができたのでした。黙って引き下がれないブラックバードは再び役人に変装して戻ってきて、今度は、ケイはアメリカのビザを持っていないために国外追放すると宣言します。するとそこへジミーが入ってきて、ケイがアメリカ市民であることの証明する書類を持ってきます。そう、それはサインしたばかりの結婚証明書でした。  【 完 】


オリジナル・プロダクション


参考文献:イーマン・ウッド著/若宮貞徳訳 『ガーシュイン 我、君を歌う』 
       All Musicals ( http://www.allmusicals.com/o/ohkay.htm )
       Wild Women of Song ( http://www.wildwomenofsong.com/kayswift.htm )


1978年リヴァイヴァル上演   1990年リヴァイヴァル上演



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