ブラームス : ヴァイオリンとチェロのための協奏曲 イ短調 Op.102

 19世紀ドイツ・ロマン派を代表する作曲家の一人、ヨハネス・ブラームスは、4曲の交響曲をはじめ歌曲・室内楽など120曲余りの作品を残しています。この曲は1887年、晩年の入り口とも言える時期に作曲された、彼の作品の中では最後の管弦楽曲です。当初、5番目の交響曲として構想されていたという説もありますが、なるほど、と頷ける重厚な作品で、協奏曲としては異例の大きな規模をもっています。このころの彼は、晩年の作品群の中でも重要な位置を占める各種の室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ヴァイオリンとチェロとピアノの為の三重奏曲など)を次々に生み出しており、ヴァイオリンとチェロという、ずばぬけた音域と表現力を持つ二種の楽器を組み合わせて協奏曲を書くというアイディアは、これらの作曲活動の中から得たものかもしれません。ブラームスはこの曲の中で二つの楽器の魅力を最大限引き出すことに成功していますが、そのためにソリストはありとあらゆる高度で多彩な演奏技術と豊かな音色を要求され、結果的にこの曲の演奏は大変難しいものとなっています。

 第一楽章(アレグロ)、重厚なオーケストラの全奏に割って入った独奏チェロ、木管楽器群による第二主題の提示をひきついだ独奏ヴァイオリンのそれぞれが、たっぷりと変幻自在に歌う長大な序奏で幕をあけます。二つの対照的な主題はソリスト達の名人芸に彩られて展開してゆきます。

 第二楽章(アンダンテ)は一転して、静かで牧歌的な、それでいてどこか諦観の漂う音楽になっています。ブラームスのファンであれば、最晩年に書かれた一連のピアノ曲(Op.116〜119)を想い出すかもしれません。第一楽章であれほど華やかに技を競いあったヴァイオリンとチェロが、ここではやさしく寄りそうようにして歌っています。

第三楽章(ヴィヴァーチェ・ノン・トロッポ)再び一転して、今度はラプソディー風の音楽になっています。軽快でコケティッシュな主題、第二楽章の香気の名残りを感じさせる主題、ハンガリアン・ダンスのような力強い民族色に満ちた主題などがめまぐるしく入れ替わり、華麗なロンド(輪舞)を形成します。
                                                           (FL: Miu)


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