第15回 秋川流域合唱祭

    
■ 2000年7月16日(日) 秋川キララホールで開催される秋川流域合唱祭で演奏する曲について簡単に説明致します。曲名についた番号はプログラム第2部の曲順です。


ビゼー作曲 歌劇『カルメン』  台本:メイヤック&アレヴィ 初演:1875年
  1. 第1幕前奏曲(オケのみ)
  2. ハバネラ「恋は野の鳥」(アルト又はソプラノ独唱 + 合唱)
  3. 「闘牛士の歌」(バリトン独唱 + 合唱)

 フランスの作曲家ビゼーが書いた傑作『カルメン』は初演の時こそ大失敗を喫しましたが、今では最も人気のある歌劇のひとつに数えられています。メリメの原作『カルメン』に基づいた作品で、奔放なジプシー女とその恋に溺れた若い兵士の悲劇を描きます。

 第1幕の前奏曲は、勇猛で華やかな闘牛士たちの行進を描きます。舞台はスペインのセヴィリア、幕が開くとそこは兵士や街の人々が集まっている煙草工場の近くの広場。田舎からセヴィリアに出てきて竜騎兵の伍長として真面目に勤務するホセには故郷に残した許嫁がいました。そのホセの前に昼休みに出てきた煙草工場の女工カルメンが現れます。この時、カルメンが歌うのが有名なハバネラで、自分に無関心なホセを「恋は野の鳥・・」と誘惑する歌です。

 その後、ホセはカルメンとの恋に溺れてしまい、軍籍まで失いカルメンのいる密輸組織に身を落とします。しかし、ジプシーの女カルメンはすぐにホセに飽き、グラナダからやってきた闘牛士エスカミーリョに心移りしてしまいます。そのエスカミーリョが第2幕で群集の歓呼に応えて勇ましく歌うのが「闘牛士の歌」です。

 カルメンに捨てられたホセは、闘牛場の外にカルメンを誘い出し、よりを戻そうとしますが断られます。ついには、エスカミーリョがいる闘牛場に戻ろうとするカルメンをホセは刺し殺してします。


マスカーニ作曲 歌劇『カヴァレリア・ルスティカーナ』 台本:トッツェッティ&メナッシ 初演:1890年
  4. 間奏曲(オケのみ)
  5. 「オレンジの花は香り」(合唱)

 イタリアの作曲家マスカーニが田舎町の音楽教師だった頃、1幕もののオペラの作曲に対する懸賞に応募してみごと1等賞に輝いた作品で、イタリアの作家ヴェルガによってシチリアを舞台として書かれた同名の短編小説に基づいています。

 主人公のトゥリッドが兵役から帰ってきたらかつての許嫁であったローラが馬車屋のアルフィオの妻になっていたため、今はサントゥッツァという村娘の愛情に慰めを見出している、という舞台設定でオペラは開始されます。前奏曲とローラに対する熱烈な思いを歌うトゥリッドのシチリアーナが終わると教会の鐘と共に幕が開きます。復活祭の朝、ワルツ風の旋律に乗って村人が教会に祈りを捧げに集まってきます。最初は女声合唱によって「ああ・・」と歌われ、次に男声も加わり、「オレンジの花は香り、ひばりは歌う」と春の復活祭に相応しい自然をたたえます。

 物語はその後、トゥリッドに捨てられた(正確にはサントゥッツァとの仲を嫉んだローラにトゥリッドを奪われた)サントゥッツァがアルフィオにトゥリッドとローラの関係を言いつけてしまいます。この後、演奏されるのが有名な間奏曲です。トゥリッドは勝ち目のない決闘の申し込みをアルフィオから受け、命を落とします。


ヴェルディ作曲 歌劇『椿姫』  台本:ピアーヴェ 初演:1853年
  6. 第1幕前奏曲(オケのみ)
  7. 「乾杯の歌」 (テノール&ソプラノ独唱 + 合唱)

 A.デュマの小説『椿の花をつけた淑女』(後に戯曲化。『椿姫』は邦訳のときにつけた題名)としてあまりに有名なこの作品、イタリアの作曲家ヴェルディがつけた題名は『ラ・トラヴィアータ(道を踏み外した女)』です。パリの華やかな社交界を舞台として高級娼婦ヴィオレッタと田舎から出てきた詩人アレフレードの出会いから物語が始まります。

 アルフレードから一年越しの恋を打ち明けられたヴィオレッタは、これまで快楽に身を委ね、愛情をお金でしか得られなかっただけにその純情さに惹かれます。二人はヴィオレッタの病を癒すためもあってパリ郊外に住むことになり、幸福に満ちた生活に入ります。しかし、しがない詩人に生活力はなく、ヴィオレッタは内緒で自分の所持品を売りに出すことで生活の糧にしていました。そこへアルフレードの父がヴィオレッタを訪ね、自分や自分の息子のために別れてくれと頼みます。ヴィオレッタはアルフレードを愛するが故に別れる決心をし、再びパリへ戻りかつての仲間、フローラのパーティに出かけます。何も知らないアフルレードは逆上してヴィオレッタを追いかけ、パーティで彼女を侮辱します。その1ケ月後、病で床に伏すヴィオレッタの元に父からヴイオレッタとの結婚を許されたアルフレードが戻ってきますが、再会を喜ぶのも束の間ヴィオレッタは息を絶えます。

 第1幕前奏曲では、病に冒されてはかない命を落とすヴィオレッタの悲運と彼女の愛への強い憧れとが描かれています。この静かで美しい前奏曲が終わるとそこはヴィオレッタの屋敷、華やかなパーティが催されています。「乾杯の歌」は二人の出会いの直後に歌われるもので、先にアルフレード次いでヴィオレッタが歌いさらに合唱が加わるもので、「快楽よりもまことの愛」と訴えるアルフレードに「快楽こそすべて」とヴィオレッタが否定するという内容です。

 余談ですが、このデュマの原作に登場するヒロインは実在した女性をモデルにしています。美貌と才気でパリ社交界の花として名を馳せましたが、肺病のためにわずか23歳で命を落とします。彼女の美しさはかの作曲家でピアニストのフランツ・リストも称えたことでも知られています。


レハール作曲 喜歌劇『メリー・ウィドー』  台本:レオン&シュタイン 初演:1905年
  8. 「ヴィリアの歌」(ソプラノ独唱 + 合唱)

 ハンガリー出身のレハールは師であるドヴォルザークの勧めもあって作曲家を志し、ワルツ「金と銀」で一躍有名になりました。その後、アン・デア・ウィーン劇場の楽長に就任し、ヨハン・シュトラウス亡き後停滞していたウィーン・オペレッタ界を復興させ、この『メリー・ウィドー(陽気な未亡人)』の成功で一躍世界にその名をとどろかせました。

 架空の国ポンテヴェドロ公国のパリ公使館で君主の誕生祝賀パーティが華やかに開かれています。そこにはポンテヴェドロ公国の全財産を支配する大富豪の未亡人ハンナが遊びに来ていることが、公国にとって頭の痛いところ。なぜなら、彼女の美貌と財産の二つを手に入れようと伊達男たちが群がっていて、もし彼女がフランス人と結婚しようものならば公国は破産してしまうからです。

 そこで公国が切り札にしたのが独身の書記官ダニロ。しかし、当のダニロはパリの踊り子達とマキシム・ド・パリで酒浸りの毎日。実はダニロとハンナはかつて恋人だったのですが、貴族であるダニロと平民であるハンナとの結婚は許されず、傷心のダニロはパリへ、ハンナは大富豪と結婚したのでした。4日4晩飲み明かしてマキシムでつぶれていたダニロはついに連行され、パ−ティ会場に朦朧として登場します。顔を合わせた二人は公国の期待とは裏腹に、プライドが邪魔して本心を明かせません。

 第2幕はパリにあるハンナの屋敷。ハンナは夜会を開き、故郷を偲びます。ポロネーズ風の曲で幕が開き、次いでスラヴ=バルカン風の踊りと民族音楽が続き、ハンナの「ヴィリアの歌」とつながります。歌の内容は、ヴィリアという森の妖精が狩人の若者を誘惑して消え去るというもので、劇の進行とは無関係です。

 ダニロはハンナを今でも愛しているのですが、財産目当てと思われたくないため素直になれません。ハンナは一計を案じて別の男性との婚約を発表、慌てるダニロを見てダニロは自分を愛していると喜びます。なんとしてもダニロとハンナを結び付けたい公国は、第3幕でマキシムの踊り子を全員ハンナ邸に呼び寄せて万全を期し、ついにはダニロとハンナはめでたく結ばれて幕となります。


ヴェルディ作曲 歌劇『ナブッコ』 台本:ソレーラ 初演:1842年
  9. 「行け我が思いよ、金色の翼に乗って」(合唱)

 ナブッコ(ナブコドノゾル又はネブカデネザル)は紀元前605年から562年まで実在したバビロニアの王で、エジプト、シリアを支配下に治めました。しかし、その晩年は暴政を極め、奇病にとりつかれて最期を迎えたと旧約聖書に記されています。このオペラは1万人を超えるヘブライ人をバビロニアに連行、幽閉した史実を背景として、暴君ナブッコと彼が奴隷に産ませた娘アビガイルレの野望、ヘブライの神による奇跡と救済を描いたものです。

 物語は、ヘブライ人の都イェルサレムにナブッコが攻め入り、ヘブライの神殿を焼き払うことから始まります。ヘブライ人をバビロニアに補囚したナブッコは自分の宮殿に戻ってヘブライの神を冒涜、その時雷鳴が轟き、ナブッコは発狂して倒れます。この機に乗じてアビガイルレは王座につき、ナブッコと彼の実の娘でヘブライに改宗したフェネーナ及び捕らえたヘブライ人を処刑しようと目論みます。しかし、間一髪でナブッコが正気に戻って王座を奪回し、ヘブライ人を解放して幕となります。

 この合唱「行け我が思いよ、金色の翼に乗って」は第3幕第2場で捕囚となりユウフラテス河畔で鎖に繋がれて強制労働をさせられているヘブライ人たちが故郷を思い、神の救済を待ち臨んで歌われるものです。ヴェルディがこのオペラを作曲した当時、オーストリアの支配下にあった北イタリアの人々を奮い立たせた曲として知られ、オペラの合唱曲として最も有名な曲のひとつに数えられます。


ヴェルディ作曲 歌劇『アイーダ』  台本:ギスランツォーニ 初演:1871年
  10 .「エジプトとイシスの神に栄光あれ」
     凱旋行進曲(オケのみ)
     「戦いに勝った将軍よ、前に出よ」

 スエズ運河開通記念にカイロに建てたオペラハウスの柿落しに依嘱された作品で、古代エジプトを舞台とし、エジプトの将軍ラダメスと敵軍であるエチオピアの捕虜アイーダとの恋物語です。

 エチオピア軍を打ち破った将軍ラダメスに対して、エジプト王は褒美として娘アムネリスを嫁として与えようとします。アイーダに思いを寄せるラダメスは捕虜の釈放を求め、アイーダとその父アモナズロ(実はエチオピアの王)を残してエチオピア人は開放されます。しかし、ラダメスは父アモナズロに唆されたアイーダにエジプト軍の情報を漏らし、さらにその現場をアムネリスに押さえられてしまいます。逮捕されたラダメスは裁判にかけられ地下牢に生きながら幽閉されることになりますが、たまたま同じ場所に隠れていたアイーダと再会し、そこで二人は共に息絶えます。

 最初の合唱曲「エジプトとイシスの神に栄光あれ」は第2幕第2場で、エジプト国王の前を勝利したエジプト軍が凱旋行進を行なう時に歌われるものです。数あるオペラの中でも最も大規模で豪華な舞台で歌われる、祝典の音楽としてふさわしい堂々とした曲です。この合唱に続いて、エジプト軍のトランペット(通称アイーダ・トランペット)他オーケストラのみによって演奏されるのが有名な「凱旋行進曲」です。なお、オペラ上演ではこの次にバレエ曲が挿入されていますが、本日はカットして、「戦いに勝った将軍よ、前に出よ」に途切れることなく続きます。この合唱はエジプト軍を勝利に導いたヒーロー、ラダメスが行進の最後に登場し、エジプト王に謁見する時の音楽です。

Copyright (C) Libraria Musica. All rights reserved.