第4楽章は冒頭はファーストとセカンドだけが f
(フォルテ)でユニゾンで主題を奏します。他の楽器は沈黙していますので、ここは左半分から音が聴こえるよりは左右から均等に客席に届いた方が効果的ですので、対向配置がベストと考えられます。しかし、第1楽章よりもユニゾンの箇所が多かったり、室内楽的に絡む箇所もあったりと隣同士で弾いた方が間違いなく演奏精度が上がる箇所もあります。とりわけ、この楽章はポルタメントを多用しているため、例えばファーストのポルタメントの終着点がセカンドのある音にピンポイントに当てようとすると対向配置ではかなり難しいことになります。
ストコフスキーのその後
さて、このストコフスキーが管楽器を弦楽器群の前に置くなどの大胆な配置したのは、大音量の中でも重要な音を担っている木管楽器を客席に聴かせたいという音響的な理由であったとされています。1943年の彼の著作
Music for All of Us では次のように書いています(増田良介『レコード芸術 2023年7月号』p.82
なお、この『レコード芸術』はこの号でなんと休刊となってしまいました!)。
ストコフスキーが何故ヴァイオリンの対向配置をやめたかについての確たる記録は今のところ見つかっていません。録音のためには弦楽器は高音楽器から低音楽器へと順番に並べるのが良かったという説が一般的ですが、既述のコートニー・ルイスはアンサンブルを向上させるためだったと書いていますし、ラジオ・フランスのサイトには、「演奏家たちがお互いの音をより良く聞こえるようにするとともに、より良く分散できるようにするため。」という既述もあります。録音と実際のコンサート・ステージの音響は別ものですが、アンサンブルという観点はどちらも同じであることを考えると「録音のため」というよりは「アンサンブルの向上」という目的が真実に近いような気がします。
同じくフランス放送のアーカイブの残されていたストコフスキーが指揮する映像の中に興味深いオーケストラの配置がありました。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽を指揮するシューベルトの未完成交響曲(1969年)。指揮者の左手にファースト・ヴァイオリン、中央にセカンド・ヴァイオリン、右手にヴィオラを配置し、木管がヴィオラの後ろ、金管は中央に座り、チェロがなんと中央の最後列に一列に並び、その後ろにコントラバスを配するというものでした。この映像は
YouTube
でも観ることができます。ストコフスキー87歳の時の映像で、ベートーヴェンの『運命』とシューベルトの『未完成』がプログラムされていました。 Stokowski
conducts Beethoven 5 and Schubert 8 - London Philharmonic (1969)
しかし、ストコフスキーはいつもこういう変則的な配置だったかというとそうではないようです。ストコフスキーと言えば映画『オーケストラの少女(One
Hundred Men and a
Girl)』(1937年)が直ぐに思い起こされますが、そこで演奏されるチャイコフスキーの交響曲第5番やワーグナーの『ローエングリン』前奏曲では管打楽器は通常の配置でチェロが外側でした(フィラデルフィア管弦楽団)。1947年の映画『カーネギーホール』でも同じチャイコフスキーの交響曲第5番でチェロを外側にしています(ニューヨーク・フィルハーモニック)。