アンドレ・プレヴィンとダイナ・ショア

 
                   ダイナ・ショア
 ドリス・デイとの録音の1年前にもうひとり、アンドレ・プレヴィンと組んで素晴らしいアルバムを遺したのがダイナ・ショアです。1959、60年に録音されたアンドレ・プレヴィン楽団によるオーケストラ伴奏の『サムバディ・ラヴス・ミー(Somebody Loves Me)』と『ダイナ・シングス・プレヴィン・プレイズ(Dinah Sings, Previn Plays)』、ダイナ・ショア43歳、プレヴィン30歳頃の録音です。

         サムバディ・ラヴス・ミー     ダイナ・シングス・プレヴィン・プレイ
  前者は映画音楽で鍛え上げられたプレヴィンの見事なオーケストレーションに支えられたバラード集。ダイナ・ショアの歌詞を味わいながらゆったりとした情緒溢れる歌いぶりにはただ聴き惚れるばかりです。プレヴィンのオーケストラも歌を邪魔することなく、しかし各楽器を適所で目立たせるなど絶妙なアレンジを施すことで見事なアルバムに仕上げています。英国のあるファンは「彼女の表情豊かな声と歌唱テクニックはオペラ歌手が妬むほどだ」とまで言っています。

 後者はドリス・デイの録音と同じメンバー、レッド・ミッチェル(ベース)とフランキー・キャップ(ドラムス)が起用されていますが、全く異なるテイストのアルバムに仕上がっています。ドリス・デイはある種の明るさを基調としてパンチの効いた歌を披露しているのに対して、ダイナ・ショアはより成熟した女性の艶を感じさせるしっとりした歌を聴かせてくれます。前者はメーカーズ・マークのハイボール、後者はシングル・モルトを傾けながら聴きたいかな。「マイ・ハニー・ヴァレンタイン(My Funny Valentine)」をはじめダイナ・ショアのしみじみとした歌唱は日本人向きで、副題の「songs in a mid-night mood」のとおり、静まり返った秋の夜長に聴くのにも似合います。

 「マイ・ハニー・ヴァレンタイン(My Funny Valentine)」を歌うダイナ・ショアの音源はこちら。
My Funny Valentine - Dinah Shore & Andre Previn
 CDのブックレットにはふたりのコメントが寄せられていて、和訳すると、ダイナ・ショアは「特別のアレンジもなく、思わせぶりのトリックもなく、何度も繰り返されるフレーズもない、私たちは心に浮かんだことだけを歌にしたわ。こうしたアルバムを作りたいといつも思っていたの。」と、プレヴィンは「ピアノで歌手の伴奏をすることは場合によっては拷問に近いことになるのですが、ダイナの伴奏をすることはどんな時でも私にとっては大いなる喜びの時なのです。彼女は音楽のすべてを知っていて、ハーモニーの変化への鑑識眼に優れ、極上のベース・ラインに喜びを見出すのです。・・・彼女はどの歌の歌詞に対しても深い関心を寄せていました。」と語っています。

 ダイナ・ショアとプレヴィンの共演の映像はYoouTubeで見ることができます。この『ダイナ・シングス・プレヴィン・プレイズ』の2曲目に収録されている「4月のパリ(April in Paris)」はまさにこの映像と同じ年に演奏されています。

Dinah Shore & Andre Previn - Begin the Beguine/April in Paris (1959)

 コール・ポーターが作曲した歌「ビギン・ザ・ビギン(Begin the Beguine)をふたりはノリノリで演奏しています。この曲、どこかクルト・ワイルの『三文オペラ』の「快適な生活のバラード(Die Ballade vom angenehmen Leben)に似ているのですが、劇場人であるプレヴィンがこの曲を知らないはずはなく、かなりワイルの音楽を強調した伴奏をしているのが印象的です。

 一方の「4月のパリ(April in Paris)」では一転してしっとりと歌っています。ドリス・デイもこの曲を1952年自身が主演した映画『エイプリル・イン・パリ』で主題歌として歌っています。


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