夕焼け灯台の秘密

 「GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊」のプロダクションI.G.が、関連会社になっているマッグ・ガーデンといっしょになって、原作を募集する小説のコンテストをやってたという記憶が頭をよぎる。アニメーション制作会社にとって、借り物でない原作は、より多くの収益をもたらす。そのためマッグ・ガーデンを傘下に入れ、そこのコンテストを通じて原作を募ったという構図が見てとれる。

 同じくアニメーション制作会社の京都アニメーションが、同じような意図から立ち上げたのかどうかは分からないものの、書き手を引きつけるという意味はおそらくあったと想像できそうな、ライトノベルのレーベル創刊。そこに登場した2冊のうち、1冊は京都アニメーションの作品で脚本を書いている人の作品で、将来の仕事として書いてもらったのか、書いたものを将来の仕事含みで引き取ったのか、やはり不明ながらも、何らかのつながりだけは感じられる。

 それでつまらなくては、ただの身内での贈与に過ぎないけれど、これが面白いから素晴らしいやら嬉しいやら。「フルメタル・パニック? ふもっふ」に「CLANNAD」に「涼宮ハルヒの憂鬱」といった、京都アニメーション作品の脚本家として活躍する志茂文彦の「夕焼け灯台の秘密」(KAエスマ文庫、667円)は、親とのちょっとしたいさかいから家を飛び出した高校1年生の大平水穂という少女が、他の親族とは音信不通ながら、彼女には住所が書かれた手紙をくれていた叔母の暮らす灯台の脇にある家にたどり着いたところから幕を開ける。

 そこには見ず知らずの女の子がいて、水穂に向かってあなたは幽霊なのかと聞いてきた。唐突な質問。そして奇妙な質問。不思議に思った水穂が、やがて叔母の家に到着すると、そこにはさっき出合った美夕という女の子と、朝絵にまひるという名の2人の女の子が暮らしていた。どうやら叔母と同居しているらしいけれど、その叔母はおらず、水穂には本当かどうか確かめようがない。おまけに彼女たちは、水穂をあまり家に入れたがらない。

 それでも家にはしばらく帰れないと、水穂が滞在を願って押し切ろうとすると、朝絵という長姉にあたりそうな少女が、水穂に頼み事をしてきた。それは、美夕には灯台から離れた外の世界のことは、決して話さないようにして欲しいということだった。どうやら朝絵とまひるは、美夕に自分たちや叔母以外の人間は、すべて死に絶えたと話しているらしかった。

 心の病気なのか。それとも隠していることああるのか。どこか訳ありな3人だったけれど、水穂もそんな彼女たちの意を汲んで、おとなしくしれいられるほど大人ではなかった。そうだったらそもそも家出なんてしてこない。多感さに揺れる心境を、灯台のそばの家でもぶつけ、我を通そうとしては3人の少女たちを戸惑わせる。

 それでも、水穂を幽霊と信じる美夕が、噴水を直して欲しい、ぬいぐるみを探して欲しいと頼んでくれば断れず、まひるともいっしょにサッカーをして遊んであげて、だんだんと仲良くなっていったある夜。水穂が見た夢の話を朝絵にしたところ、思い当たることがあるのか震えだし、はやく出ていくようにと告げた。

 何かある。3人の女の子たちには何かがある。そこから世界に大変な事態が起こる可能性が示唆され、3人の女の子たちの境遇も明かされて、想いがあふれ出して世界を包むようなSF的な設定が浮かんでくる。その一方で、家族に対してわだかまりを持っていた水穂が、自分の意識を見つめ直して、3人の少女たちといっしょに明日を探り始める成長喉ラマも繰り広げられる。

 恩田陸の「常野物語」シリーズや、その元ネタとなっているゼナ・ヘンダースンの「ピープル」シリーズ、あるいは筒井康隆の七瀬シリーズにも重なる問題をはらみつつ、追う者と終われる者といったサスペンスへとはいかず、優しい視線の中で生きる場所を探る少女たちを描こうとした物語。今はまだ受け入れられはしなくても、いずれ術が見つかり、心も広くなって少女たちが日々を普通に、楽しく送れる時が来ることを願わずにはいられない。

 おまけの短編は、美夕の持つ不思議な力が媒介となって起こった出会いと再会の物語。ちょっとしたすれ違いが、後に強い関係をもたらす奇蹟の素晴らしさを見て、力は怖くなんかないと理解しよう


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