よくわかる現代魔法

 進み過ぎた科学は魔法と見分けが付かないと言ったのは、遠くスリランカに住む偉大な仙人だったかそれともSF作家だったか。

 実際のところ進み過ぎてラジオや蓄音機といった家電ですら、声の出る魔法の箱にしか思えない浅学非才の人間には、コンピュータなどというキーボードで操作すればたちまちのうちに計算でも何でもしてくれる機械は、超魔法以外の何物でもない。それを動かすプログラムは差詰め魔法の呪文で、繰り出すプログラマーは現代に蘇った魔法使いか。

 桜坂洋の「よくわかる現代魔法」(集英社スーパーダッシュ文庫、638円)は、コンピュータとプログラムとプログラマーの持つそんな特質を取り上げ、現代に魔法を蘇らせる物語へと持っていったIT時代ならではのファンタジー。過去にありそうであまりなかったアイディアに、特徴的なキャラクターと独特のセリフ回しを加えて小説に仕立て上げた腕前に、まずは目を見張らされる。

 何をやってもドジばかりという少女・森下こよみが、自分を変えたいと押入の奥から古新聞に混じって新品のような見てくれで発見された、妙なチラシに書かれてあった魔法学校とやらを訪ねるとそこは普通の洋館になっていて 、何しに来たんだと聞く口の悪い少年と、彼の姉という女性の出迎えを受けた。

 聞くとすでに魔法学校は店を閉めていて入学は不可能とのこと。但し館の主で出迎えてくれた女性、姉原美鎖によれば”現代魔法”だったら教えられるということで、こよみは美鎖からその”現代魔法”なるものを教わることになる。もっともそこは天性のドジっ娘・こよみ。何故か空から金だらいを発現させる魔法が用もないのに発動しては、口の悪い少年の姉原聡志郎を呆れさせ苛立たせる。

 それでも逃げることなく現代魔法の学習に精を出すこよみ。そんな最中に、パソコンのプログラムに巧妙に仕込まれていた魔法が発動しては、ネットワークに悪さをするピンチが日本を襲い、パソコンのコードに魔法を潜り込ませる天才プログラマーで魔法使いの美鎖たちに、退治の出番が回ってくる。

 ところが事件はなかなかに複雑で、すでに美少女魔法使いの一ノ瀬弓子クリスティーナが出張っていたものの敵は強力で用意には退けられない。逆に人を操りクリスティーナやこよみたちに襲い掛かって来る始末。かつてない危険な場所に居合わせてしまったこよみは果たして無事に生還できるのか。そして世界を救うことができるのか。

 苦労と努力と天性ならぬ天然の才能で、ドジっ娘が現代魔法使いとして進歩していくという、かくも感動的なドラマを一方の極としながらも、もう一方では天然ボケぶりを発揮して言葉や態度で不思議なリアクションを返すこよみのキャラクター造型、念じて望んでいない金だらいを出してしまったり、落ちているバナナの皮ですっ転んでしまったりといった、ギャグ的なシチュエーションがふんだんにあって大笑いできる。

 そしてまた、コンピュータのプログラムに魔法のコードを重ね合わせて、古代の魔法使いが口で唱えた「呪文=コード」を、コンピュータのCPUで高速に無限に実行させることで魔法を発動させる、現代魔法の設定のまさしく現代らしさが絡み合って、「よくわかる現代魔法」をスタイリッシュで面白い作品にしている。

 選んだ題材といい、出てくるキャラクターといい、書いて書ける作家といった印象の作者だけに、同じシリーズなら蔓延るコンピュータとともに広がる現代魔法の暴走する様と、炸裂するこよみのドジが巻き起こすなおいっそう凄まじいドタバタを読みたいもの。別のシリーズならそれで、目新しい視点とキャラクター作りの才で紡がれる抱腹のストーリーを読んでみたい。とはいえ出来れば続編を。今度は上空1万メートルから直径1万メートルの金たらい落としなんか、良いんじゃない?


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