“不思議”取り扱います
付喪堂骨董店

 古い物が好きだからと言って、無邪気に取り扱うと痛い目を見る。呪いがかかっていたり。幽霊が取り憑いていたり。だからもし、気に入った骨董を見つけたのなら買う前に1度、付喪堂骨董店に持ち込んでみるのが精神的にも、肉体的にもベターだろう。

 それの店はどこにあるかというと、御堂彰彦の「“不思議”取り扱います 付喪堂骨董店」(電撃文庫、590円)という物語の中。骨董屋で、もっぱら古い品々を取り扱っているけれど、中に『アンティーク』なる呪具が混じっているのがこの店の特徴だ。

 アンティーク? それって骨董を横に読んだだけじゃない? 当たっているけどちょっと違う。この店が扱う『アンティーク』とは、呪いがこめられていたり、曰く因縁を持った道具や石や仏像や何やらかにやらのことを指す。主人という摂津都和子がその筋では知られた人らしく、全世界を飛び回っては不思議な力が込められた『アンティーク』を買い付け並べて売っている。

 もっとも全てが本物という訳ではなく、むしろほんとどが偽物という体たらく。それでも本物が混じっていて、あれやこれやと問題を起こしたり、逆に助けになったりするからややこしい。付喪堂骨董店でアルバイトをしている刻也という少年と、咲という少女もそんな『アンティーク』が原因でさまざまな苦労を背負い込む羽目になる。

 1話目は別の骨董屋から『アンティーク』を買った”僕”が、その『アンティーク』の持つ”偶然”を起こす能力を使い、自分の思いと違ってしまった事態を操作しようとするエピソード。一方で街では事故に遭遇する人が続出し、巻き込まれた人たちが付喪堂骨董店が売りつけた謎の石が原因じゃないかと殴り込んで来たからたまらない。

 違うと言ってアルバイトをしていた刻也は、原因とされたお守りの石を持ったまま、訪ねてきた高校生たちを連れて店を出て街を歩いて無実を証明しようとする。ところがそこに”偶然”に思える災難が次々と降りかかっては、刻也と付喪堂骨董店の立場を悪くする。

 明らかになる意外な真相。そして悲劇的にも見える結末に便利だからと言って『アンティーク』を安易に扱う怖さを教えられる。『アンティーク』があったからこそ助かった命もあるけれど、それが後にツケとなって還って来ない可能性もあったりするから悩ましい。使わないのが吉、なんだろう、やっぱり『アンティーク』は。

 そんな『アンティーク』と呼ばれる呪具が持つ、凄さと怖さを浮かび上がらせるエピソードを何本か収録した連作短編集が「“不思議”取り扱います 付喪堂骨董店」。ほかには人を直す力があったはずなのに、いつしか人を不治の病に追い込む力を出すようになった仏像の謎に迫る話とか、書いたことが忘れられなくなるノートをめぐる話を収録している。

 面白かったのは最後の1編で、その日に稼いだ金はその日のうちに誰かのために使ってしまわないと、翌日に残らなくなってしまう呪いのかかった『アンティーク』の財布をめぐるストーリー。食糧を買い込んでおいてもそれが自分の食べるためのものなら、日付がかわると消えてしまうというからややこしい。

 そんな『アンティーク』の財布に間違えてお札を入れて呪いを発動させてしまった刻也。呪いが消える時までいくら稼いでも手元には残らないとあってひとつの行動に出た。アルバイトの金が自分のものにならないのだったら、一緒にアルバイトをしている咲にプレゼントをすれば良い。そう考えて刻也は、少女にピンクのワンピースや白い帽子や、赤い眼鏡を買ってプレゼントして咲を凍り付かせる。

 どちらかといえば黒い衣装を好んで来ている仏頂面な咲。それを自覚しているだけに、まずは茫然自失となり、それから刻也の嫌がらせに違いないと最初は考える。けれども何度もプレゼントを寄こす刻也に、もしかしたら自分の為を想ってのことかもしれないと、気を取り直す咲の気持ちがぐっと刻也に傾いた時。発せられる刻也の残酷な言葉が咲に突き刺さる。

 刻也はと言えば、普段のツンとすまして、何もかも見通したかのような咲の性格を知っているからこそ取った1つの方策で、相互に理解の上と踏んでいたから咲の急変に驚いた。まさか咲にそんな可愛らしい所があるなんて、思いも寄らないことだと悔やみ悩んだ。少しはそんな咲の純さを感じていただけに、なおのこと気まずい思いに苛まれた。

 怒りに爆発するのか、咲の秘められている能力が? 幸いにも用意されていたもう1つの救いがちゃんと働き、その場を丸く収めてまずはひと安心。人は見かけによらないという教訓を残しつつ、これからの2人の関係がどこへ向かうのかという興味を投げかける。

 最初のエピソードでは、古賀新一の「エコエコアザラク」に登場する黒井ミサに似たダークな部分を見せていた咲だったけど、続くエピソードでは『アンティーク』の作用で病に倒れ、少年のプレゼントにどぎまぎしたりと割に人間っぽく、女の子っぽいところを見せる。元からそういったキャラクターだったのか。それともやっぱり秘密があるのか。続編で是非に確かめたい。


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