ツギハギ運命翅1 新宿デイズ

 新宿版の「デュラララ!!」とでも言いたくなる。それが、熊谷純の「ツギハギ運命翅1 新宿デイズ」(オーバーラップ文庫)。「デュラララ!!」で成田良悟が池袋を舞台に描いた、破天荒な奴らが大勢現れ、関わり合いながら進んでいく人気シリーズに通じる驚きと、面白さを持った作品だ。

 3年前に大規模な感染症が発生して、大勢の人が死んで、その魂みたいなものが現世に残って漂っては、いろいろと問題を起こしたりしている東京が舞台。新宿には、特にそんな見えない存在“アンリブ”が多くいて、それを見る見る力を持ったアキラという少年が切り裂いて歩いている。いわゆるゴーストハンターという奴?

 そんなアキラがメーンに活躍する話と思いきや、「ツギハギ運命翅1 新宿デイズ」は七瀬佑也という大人しそうな少年が、過去に3人もの彼女を目の前で惨殺されるという、猟奇を味わった果てに得た、4人目となるミナミという名の彼女といっしょに、新宿に行くところから始まる。

 何で過去に3人も彼女を殺されたのか。偶然にしても多すぎるのではないか。もはや猟奇うら超えた犯罪ではないのか。そんな疑問も浮かんで当然だけれど、どうもそうはなっていないところがひとつのポイント。後に理由が明らかになって、佑也の側にある特殊な“事情”と絡んでくる。

 その佑也。ミナミと訪れた新宿で、いきなり刹那真虎斗という名のホストが、新宿マフィアを名乗るチンピラたちに囲まれていたところに行き合わせる。そこにギャルが逃げて来てチンピラたちと悶着を起こし、女性には絶対的に優しい真虎斗の怒りが爆発して場が混乱したところに、空から神凪蒼空というトラブルシューターを生業にする若者が降ってきて、チンピラたちを叩きのめしたところにさらに、チンピラたちのボスという美ヶ原玲司という若い男が現れる。

 次から次へと現れるスタイリッシュでな男たち。そして特別な部分を持った破天荒な男たち。本条院政継という、若くして新宿警察署の署長になった男も列に加わり、常に銃を発射したがって悶々としている、トリガーハッピーな新山紅音という女性警察官も付いてきたりしてもう場はくんずほぐれつ。そんな面々が重なり合い、絡み合いながら展開は、ソーシャルゲームの中に生まれた意思を持った少女のキャラクターをめぐる争奪戦へと向かっていく。

 殺されて発見された男がいて、その男を殺したのがホストの真虎斗ということにされ、警察に追われることになった身を億劫がるどころか名を売るチャンスだと街に出たら、新宿へとやって来た佑也をさも知っているように話しかけて来たものの、佑也には誰か分からず戸惑ったホームレスがいて、2人で話しているところに拳銃を持った紅音が現れ、問答無用で撃ってくる。

 そして、殺されたという男は前夜にそのホームレスと飲んでいて、実は生きているらしいと分かって何かが起こっていると真虎斗に想像させる。一方で、新宿マフィアを仕切る玲司は、チンピラたちを踏んづけ逃げていたギャル、と見えて実は整形を受けたメイドキャバクラの店長を捕まえたトラブルシューターの蒼空といっしょに、大勢を虜にしてその獲得に大量の金を使わせる、ソーシャルゲームの美少女キャラの謎を探り、同じようにキャラを探す女性研究者と対決する。

 その果てに、物語は佑也が絡みミナミという少女が絡んで、そしてツギハギを始末して歩くアキラという男も絡んで、ひとつの収束へと向かって動き出す。重なり合って絡み合って進んでいく群像的な展開は、成田良悟も得意とするところで、パワフルだったり、裏で街を仕切っていたり、可愛いけれど人間性がぶっとんでいたりするキャラクターたちにも、成田作品と通じるところがありそう。

 ただ、特にメーンとなる筋書きを持たないまま、喧噪の中に大勢が関わり合い、戦い合う「デュララ!!」とは違って、「ツギハギ運命翅1 新宿デイズ」にはツギハギという世界を脅かす存在があって、それがもたらす事件を裏で解決して回るアキラという人物がいて、その活動を中軸に、周囲がいろいろと立ち回っていくことになっていきそう。

 まだまだ残るツギハギたちが何を起こし、それをアキラがどう始末し、そこに佑也がどう絡んで、さらに周囲がどう大騒ぎするのか。楽しませてくれそう。加えて3年前の感染症の実体も、まだ描かれていない。それがいったいどういう理由で発生し、どれだけの悲劇を引き起こし、今にどう影響を与えているのか。探っていきたい。

 あとこれが大事なところ。紅音ちゃんのビジュアルが見たい。拳銃大好きで発砲大好き。でも拳銃を奪われると……。そんな彼女の活躍を今度は是非に、たっぷりと。


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