ターミナル・ゲーム

 ネットワーク内に構築された仮想空間を1つの舞台にストーリーが進む「ターミナル・ゲーム」(コール・ペリマン、早川書房、2600円)は、著者も解説者も触れているように、おそらくは純然たるミステリー作品だ。しかし、仮想空間に出没する謎のキャラクター「オーギー」に関する記述が、AI(人工知能)の可能性をうかがう上で面白い。

 ストーリーは、現実の世界で起こった殺人事件のシチュエーションが、仮想空間にしつらえられた「殺人劇場」で繰り返されるところから始まる。この仮想空間は、富士通の「ハビタット」、あるいはインターネット上の「ワールド・チャット」のように、CG(コンピューター・グラフィックス)で描かれた世界を、同じくCGの自分の分身(アバター)が自由に歩き回り、会話し、みだらな行為を繰り広げるというもの。「ヴィーナスシティ」や「ブームタウン」(内田美奈子)のような感覚変換は伴わず、客観的にはパソコンのモニター上で展開されるCGキャラクター達を、キーボードやマウスで操作していることになる。

 だが興味深いことに、キャラクターの操作者は、知らず知らずモニター内のキャラクターに感情移入し、モニター上の出来事を、あたかも自分が経験しているかのごとき気持ちになるらしい。

 さて、「殺人劇場」の司祭たる「オーギー」は、あたかもネットワーク上に出現した新しい生命体のごとく扱われる。操作しているものが見あたらないからだ。しかし、ネットワーク上にしか存在しないと思われている「オーギー」が、現実世界で起こる殺人事件に関わっている節がある。何故なら殺人事件の発生時刻からまもなく、「殺人劇場」でその殺人のシチュエーションが繰り返されるからである。

 ミステリーなので、謎解きの根幹に関わる説明は出来ないが、少なくとも同作品では、ネットワーク上の人工知能の存在は否定されているらしい。ただ、ネットワークに集う人たちの意識が、「オーギー」なる存在を生み出したのなら、いつの日にか「オーギー」が、ネットワーカー達の情念から解き放たれて、独立した存在になることがあるのかもしれない。

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