Stage Girls
ステージガールズ おかしな二人

 出た買った読んだ。面白かった。

 いやいや面白いことはフリー漫画誌「COMIC GUMBO」で連載中の作品を読んでいたから分かっていた。テーマはお笑い。そして友情・別離・勝負に勝利の物語。それで面白くない訳がないし、実際に面白いんだから素晴らしい。お笑いの会社が束になって作った漫画誌のどんな作品もこの1作のたった1話に吹き飛ばされる。吹き飛ばされる前に消えたけど。

 上野毛あさみ原作で、黒岩よしひろ画による「ステージガールズ 1」(デジマ、560円)がその漫画。高校生お笑いグランプリで優勝したカメちゃんこと亀野歩美とシゲさんこと福本茂世の2人が作っていた「ステージガールズ」という名のコンビが、なぜかその後すぐに解散してしまって2年後から、お話は始まる。

 もっぱらネタを考えていて、カメちゃんとのコンビではツッコミもやってたシゲさんは今、芸人ではなく激辛料理専門の店で住み込みで働いている。過去は内緒。一方、動きの激しさとボケの天然ぶりが輝いていたカメちゃんは、弱小事務所に所属したまま板垣薫ことガキさんという元アイドルの女の子と、「ドルフィンズ」というコンビ結成。あまり売れてはいないもののステージに立ち、テレビに出ながら忙しい毎日を送っている。

 お笑い界で最大勢力のヨシダマにあってナンバーワンの権勢を誇る松園に、いずれ抜かれるかもしれないと言わせたくらいの「ステージガールズ」がどうして消えてしまったのか? それには理由があってそれもなかなかにしんどい理由で、降りかかるプレッシャーの中でたったひとり、カメちゃんは芸人を続けることになる。

 弱小事務所だから仕事は少なく、おまけに「ステージガールズ」を解散した理由も絡んで大きな仕事がやって来ない。そんなあまり明るくない未来にも負けず、カメちゃんは人数あわせに呼び出されては真冬のお台場の海を泳がされ、激辛料理を食べては床をのたうち回る激しいリアクションを求められる仕事にも、嫌な顔をひとつも見せずに明るく前向きに取り組んでいる。

 というよりも、困難を困難とすらまるで思わず、迫る難局も持ち前の才覚で乗り切って、敵ながらあっぱれってところを、とある理由で敵に回してしまったヨシダマの息がかかった面々にも見せつける。天然パワーの前にはどんな壁も壁ではない。なぜなら天然にそんな壁など見えないのだから。

 2巻目以降の展開で、ヨシダマがしかけている勝ち抜きお笑いコンテストの「マゼコン」に「ドルフィンズ」が引っ張り出されて陰謀をめぐらされることになって、そこには相方のシゲさんも、こちらは大手芸能プロダクションのお嬢様ながら、父親が作った芸人養成学校に通っている日々木鈴菜ことレイナに引っ張り出されて参加する。

 未だ見えないヨシダマのめぐらす陰謀を、カメちゃんシゲさんのそれぞれのコンビがう覆すのか。そしてそれぞれの2組が激突する時は来るのか。さらにその後は。「ステージガールズ」は再結成されるのか。楽しめそうな展開が、隔週での掲載を待ち遠しくさせている。

 魅力はひとつにキャラクター。ネタづくりに関しては天才的なシゲさんも、芸能プロダクションの娘のレイナも元アイドルのガキさんも、ことお笑いに関してはどこかロジックで入っているところがある。そこにいる理由を探して求めて彷徨っている。

 そんな周囲のさまざまに錯綜する思惑なんてまるで関係無しに、ただ面白いことがやりたいし、世界を面白がらせたいとひたすらに突っ走るカメちゃんだけがひとり突出。深層心理を語らせていないのか、それともないのか分からないけれども根っからの天然ぶりが逆に際だって、物語を引っ張っていってくれる。こんな芸人が、理詰めで先が読めるよう空気をぶちこわして、唖然呆然のお笑いを奴を繰り出しては時代を変えて行ったんだろう。

 絵も魅力。ステージに飛び出してきては2人そろってぐいっと脚をあげてまず、目を引きつけようとする「ステージガールズ」の動きの面白さをしっかり見せてくれる。その後も徹底的にバカをやり続けるカメちゃんの天真爛漫な姿を活写。にじみ出てくる面白さがその振る舞いから感じられる。

 世にお笑いブームがしばらく到来している中で、それほど注目を集めているように見えないのは掲載紙がヨシダマならぬ大手のお笑い事務所が出していた漫画誌ではなく、無料の「COMIC GUMBO」だからなのか。それともやり玉に挙げられているヨシダマによく似たた大手のお笑い芸能事務所が、よからぬプレッシャーをかけているからなのか。

 いずれにしても雑誌対決では発行を続けて単行本まで出すに至った「COMIC GUMBO」が大手お笑い事務所の肝いり雑誌に完勝した訳で、その勢いで「ドルフィンズ」には「マゼコン」に勝ち抜いてもらい、シゲさんにも復帰を果たしてもらい再結成された「ステージガールズ」が、あぶれたガキさんとレイナの美少女2人組がもしかしたら結成するかもしれないコンビを相手に次の大会で頂点を争う、なんて展開を期待したい。

 ここでヨシダマならぬ大手お笑い事務所が一念発起して、自慢の若手を大量に繰り出し松園ならぬあの男までも貸し出して、例えば上野樹里と関めぐみのカメちゃんシゲさんコンビで「ステージガールズ」ドラマ化企画を立案して、これも例えば日本テレビを動かし実現したらさすがなものだと褒め称えたい。それはさすがに無理か。


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