SPY×FAMILY1〜3

 偽装家族、血のつながりがない家族の物語なら過去にも数々あったりするし、平凡なサラリーマンや普通の主婦に見えて、実は凄腕のスパイだったり傭兵だったりする話も過去に数々あったりする。けれども、方やスパイでありこなた殺し屋でありながら、それぞれが素性を明かさず目的も異なっているにも関わらず、家族として暮らし始める話は珍しいかもしれない。

 なおかつスパイはその国を脅かそうとする存在で、殺し屋はそうした脅威を排除する側にいる。知られたら血で血を洗うような殺し合いが始まっても不思議ではない関係が、まとまっているのは間にひとりの少女がいるからだ。名をアーニャ。人の心が読める超能力者だ。

 父親のロイド・フォージャーが“黄昏”と呼ばれるスパイであることも、母親になったヨル・ブライアが“いばら姫”とあだ名される殺し屋であることも、アーニャは2人の心を読んで知っている。けれどもまだ幼く、捨てられることが怖く、何よりスパイや殺し屋といった存在に強い好奇心を抱いていることから騒ぐことなく逃げることもなく、2人の娘として振る舞っている。

 どうしてそんな家族ができたのか。ロイドが東国に潜入したのは、政治家で一党を率いるドノバン・デズモンドに接触するため。用心深いドノバンに会うには、名門イーデン校で行われる式典に、ドノバンが息子のダミアンを見に来る場に居合わせなくてはならない。そのためには自分のこどもをイーデン校の生徒にしてなくてはならない。

 ロイドは東国で養子を探し、妻を娶う必要があっていろいろと探した結果、超能力者のアーニャが娘となり、殺し屋のヨルが妻となった。いずれもそうとは知らず。そんな、誰もが素性を隠してひとつの目的のために協力し、家族を演じるうちにだんだんとアーニャに対する愛情や、ヨルなりロイドなりへの関心も高まって、家族のように見えていく展開が、遠藤達哉の「SPY×FAMILY」(集英社、1〜3巻各480円)のひとつの読みどころだろう。

 イーデン校に入るためには試験を突破しなくてはならない。そのためには厳しい面接を通過しなくてはならない。そんな時に見せたロイドの準備のすさまじさ。そこまでするかというたたみかけがおかしくもあり、それくらいしなくてはスパイとして活動は不可能だという示唆も得られる。一方で、アーニャが危険な目にあった時に見せるヨルの体技のすさまじさ。ふだんは天然に見える美女が緊急時にに見せるアクション描写も見所だ。

 外務省に勤めていると思われたヨルの弟が実は……といった描写も挟まり、ロイドの正体、ヨルの本業がいつ露見するかといったスリルがあり、また本来の目的であるドノバンとの接触のために、アーニャが式典に参加できるだけの成績がとれるかを見ていくワクワク感もあってこの先、どんな広がりがあるかを期待してしまう。

 というか、あれだけの足技なり体術なりを見せてどうしてロイドは気付かないのか? そこはそれ、フィクションを楽しませるためのお約束。家族を装ってアーニャを優等生に仕立て上げ、ドノバンに近づくことだけに集中して他がおろそかになっているのかもしれない。そう思おう。

 すべての事が終わったあとにロイドとヨルとアーニャは本当の家族になれるのか。そもそも家族とは何なのか。そんな問いへの答えをいつか知りたい。早くなくてもいい。さんざんっぱらドキドキさせハラハラさせてくれた方が、得られる答えも感動的になるだろうから。


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