S.P.A.T! −スパット−

 高度に発達した幽霊は人間と区別が付かない。

 そう言いったのは英国のSF作家だったか、どこかの霊媒師だったかは知らないけれど、とりあえず鷹野佑希の「S.P.A.T! スパット」(GA文庫)の主人公、宇津賀ひまりにとって幽霊は、それと認識されない限りにおいて人間と変わらない存在らしい。

 気づきさえしなければ笑顔でスルー。あるいは無関心。なのにそれが幽霊だと知ったとたん、恐怖がわき出てひまりの体をぶるぶると震わせる。

 だから本当は交番のお巡りさんになりたかったのに、入った警察で妙な適正を認められて、警視庁の本庁にある幽霊に関わる事態を担当する「警視庁特務課・Gクライシス対策室」に配属になってそして、どんな仕事を任されたのかと知って驚いた。

 Gクライシスとは5年前に突然起こった超常現象。つまりは誰の目にも幽霊が見えるようになってしまう現象で、見渡すとそこかしこに幽霊たちが立っていたり、漂っていたりして、生きている人たちに視覚的聴覚的な影響を与えるようになっていた。

 ポルターガイストのような物理的な影響はないんだから、放っておけばどうということはないはず。けれども、ひまりのように恐がり慌てる人間が起こす事故とか事件は後を絶たず、幽霊が入ってこないような結界を作る機械を発明したり、頼まれて除霊する仕事が生まれたりしていた。

 警視庁のGクライシス対策室も、そんな事故の後始末をする部署かというとそれだけではなくて、むしろ幽霊の存在を捜査に積極的に活用して、事故や事件の解決に繋げようとするチームだった。

 見えるようになったといっても能力によって差があって、うすぼんやりとだけ見える人もいれば、相手の声が聞こえる人もいる。ひまりの場合はそれが度を過ぎていて、幽霊であっても会話は可能で気づかなければ人間とまるで同じに感じてしまう。ただし気づくともうパニック。拝み屋だった祖母が幼かったひまりに幽霊話をさんざん脅かしたものだから、すっかり幽霊恐怖症が身についてしまっていた。

 それなのにGクライシス対策室では殺人事件が起こると現場に駆けつけ、幽霊を相手に聞き込みの仕事をやらされた。周辺にいる幽霊から被害者自身の幽霊まで。血まみれの姿で恨みに呻く幽霊もいたしりて、もう恐ろしくって怖くって、ひまりは臆して逃げだそうとしてしまう。

 それでも、キャリアのエリートなのになぜかGクライシス対策室にいる伊崎圭吾に冷たい目で見られ続けるのが嫌だったことがあり、また同じ対策室にいる仲間たちの支えもあって、どうにか仕事をこなしていく。

 ちょっと変わった新人ポリスの奮闘記。形だけなら定番だけれど、幽霊を相手に聞き込みをして、事件を解決していくという一風変わったシチュエーションが楽しさを増す。

 幽霊との付き合いもあっただろう祖母が、どうしてこうまでひまりを幽霊恐怖症にしたのかが分からないけど、ひまりがくっきりと“見えて”しまう体質だと知って、人間と幽霊の区別がつかずのめりこんでは引きずり込まれないよう、あらかじめ釘を刺しておこうとしたのかもしれない。

 一方で幽霊を鎮める歌も教えていたしりて、それが捜査の時に役立ったから、いつかは自分と似たような道に進む予感を持っていたのだろう。

 死人に口なしどころか死人が積極的に喋る時代は、犯罪者にとっては悪夢に違いない。だから死人の口を封じるべく、強制的に除霊する消し屋の仕事が生まれたりするのは設定をうまく活かした展開だ。

 1巻目でも姿は見せないでまま何人かの幽霊を消した強力な消し屋が現れていたりして、今後はその消し屋との対決も描かれていくことになるのだろう。あるいは若くして除霊屋の仕事を引き継ぎ頑張っている少女、竜谷瑞貴との関わりとかも。

 そんな展開もさることながら、ひまりにとって最大の敵になりそうなのが伊崎の妹、伊崎優梨。冷徹な男がその妹の前だとデレデレになるのは仕方がないとして、兄をデレデレにさせては高い品物をきっちりせしめる妹からちょろりとのぞくダークな顔が、伊崎といっしょに捜査するひまりへと向かって起こるバトルに興味を引かせる。

 幽霊よりも人間よりも手強いブラコンパワーにどうなる? ひまり。


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