空に欠けた旋律  空に欠けた旋律2

 君のために戦う。それがたぶん根源なのだろう。戦うことの。戦う意味の。

 家族のため、子供のため、恋人のため、尊敬するあの人のため……。対象にはさまざまあれど、誰かがいるから守りたいと思う気持ちが生まれるし、そのために戦わなければという思いが育まれる。

 もしも自分だけだったら。生き延びたい、生き残りたいという生存本能は確かに強くて、そのために人を戦いの渦中に引っ張り込むこともある。でも、それだけで果たしていつまで保つか。限界を知った時に、それでも越えようと思えるか。

 身ひとり果てることへの抵抗感は、誰かを残して逝くことよりもはるかに少ない。そんな気がする。だから思う。誰かのために戦ってこそ、人は強くも激しくもしつこくもなれる。

 葉月双の「空に欠けた旋律(メロディ)」(GA文庫、第1巻、第2巻とも600円)というシリーズはそんな、誰かのために戦い続ける者たちの物語だ。世界の9割近くが人の住めない場所となり、残り1割もサムリエとアギスという2つの国に別れて、長い戦争を続けている。

 そんな世界で、アギスに生まれたレイことレスティ・ヴァーナと、エレナ・ランズベリーの2人は、かつて自分たちの住んでいた街がサムリエの軍隊によって空爆をうけ、家族を失った時に駆け付け、助けてくれた“銀色の魔女”に憧れ、彼女のように「メロディ」と呼ばれる人型の巨大ロボットに乗り込み戦う戦士を目指す。

 適性もあって採用されて、魔女ことクッキィ・ハーツが所属するチームに配属されたレイとエレナ。挨拶もそこそこに、隊長のブラッド・ホークスという男性も含めた4人は戦場へと飛ぶものの、そこに現れたサムリエのエースにクッキィは撃墜されてしまう。

 即座にレイは戦場から離脱して、クッキィの救助へと向かう。失った家族の仇がうちたいという気持ちがなかった訳ではないけれど、レイがメロディ乗りを目指した最大の理由はクッキィのため。彼女のために戦い、彼女のために死ねるなら本望といった気持ちは、戦いの場から背を向けることになっても、レイをクッキィの下へと向かわせた。

 命令違反を咎められても、幼なじみのエレナから罵倒されても、決して変わることのなかったレイの信念。半ば執着にも似たレイのクッキィへの思いを受けて、クッキィにもレイと死ぬまで共に在り続ける意識が生まれる。

 それは、アギスという国の中枢を握る存在が企む、戦争の永久化に反対してクーデターを起こそうとして失敗し、クッキィとレイ、そしてブラッドの3人がアギスから追われる身になっても変わらず続く。ひとり部隊に残った幼なじみのエレナを敵に回しても、まるで揺らぐことはない。

 クッキィのために戦う。それこそが、それだけを原動力にして戦うレイのふるまいは時として残酷で、容赦なくなることもあるけれど、それを抑え止めるクッキィとのコンビネーションが、2人とそしていっしょに行動している隊長を、過酷な戦いから生き延びさせている。

 愛は強い。死を覚悟した愛はもっと強い。そういうものなのかもしれない。

 メロディを操り、200年近くも戦い続けているというクッキィは普通の人間ではない。そして、行く先々に違う役職や階級をもって現れる、同じ顔をしたフラン・ショウテイラーという少女もやはり、普通の人間ではない。

 作った存在がいて、使う行為があって世界に散ったクッキィやフランたちの存在から浮かぶ不気味さが、舞台となっている世界を箱庭のように見せ、その上で繰り広げられる戦いを舞台上で演じられる戯曲のように感じさせる。踊らせているのは誰なのか。その目的は。どこか神林長平を思わせる、観念的な世界観を持ったシリーズだ。

 第2巻では、仇敵だったはずのサムリエのエース、フレイとの共闘も行われて、そんな、世界を裏から操り踊らせる存在との本格的な対決が始まる。クッキィを生みだし、フランたちやフレイをも生みだしては争わせ、支配させた存在との戦いだ。

 何を目的として、クッキィたちの生みの親がそうしたのかという謎と、そんな存在の手のひらで踊らされるクッキィたち、そして、人類がどうやって抜けだし、羽ばたいて世界を安寧へと導くのかが気になる。

 打開する道筋は、やはりレイのクッキィを思う気持ちになるのだろうか。それがたとえヘテロなものではないとしても。好きは好き、好きだから好き、それで良いのだ、それだから強いのだ。


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