身体の夢
展覧会名:身体の夢
会場:東京都現代美術館
日時:1999年8月7日
入場料:1000円



 夏の暑さで歩く道路も茹で上がっているみたいだけど、ほら木場から東京都現代美術館まで行く途中の公園は木場だけあって水辺を模したものがいくつかあって、近所のガキなお子さまが水遊びなんかをしていてとっても目に優しいんですわ、ってあぶねー奴、でも深川警察署も近いんで無茶はしません流石にねえ。

 で展覧会の方は1つは過去のコルセットから最近のデザイナーによる半ば実験的な物も含めた衣装の歴史をザッと辿ったもので、もう1つはファッションをテーマにした美術作品って構成になっている、ってもそれらが結構入り交じっている辺りもアートとファッションとゆー共に「美」を追究する物だけに、どこかでベクトルが重なり合っているって事の現れなんだろー。

 居並ぶコルセットは最近読んだ唐沢俊一さんが監約したアメリカ人だかが書いた身体改造用珍妙パーツを集めた本との絡みから、こーゆー物を使ってまで人は体を改造したがったのかと往時の人の嗜好も含めていろいろ考えさせられる。胴体なんかこーんなに(指で輪を作ったくらい)細いんだぜ驚きだぜ胃はどこに入ってるんだろー。

 それが途中から胴体への圧迫がズンと減った衣装が出てはくるんだけど、それでもコルセットこそ外されても依然細身の胴体が主流を占めてそーゆー体型の人じゃないと着られない服が並んでいるのは、いくら好みが多様化っていったって美の基準がそう短期間にグラリと変わるってもんじゃーないことを示しているよーな気がしてならない。情報が蓄積され共有されるよーになった影響かな、染み着いた観念がなかなか消えやしない。

 気になった服は三宅一生さんが作った1枚の布にスナップを付けて体にまきつけて定められたよーにスナップを留めると服になるって奴。中身のマネキンのスタイルの良さもあったんだろーけど見た目の可愛さが近所にあった別の服に比べて群抜けていた。川久保玲さんの服はカラスなボロルック系はなく最近のなのかなチェックの可愛い柄の素材で背中が瘤だったりお尻がでぶだったりと、異形なものを中に入れて身体のラインを通念的な美の基準からすれば醜く改変してしまう作品を出している。

 それを新しい美として美術館に展示してしまうのはキュレーターの感性だから仕方のない事だとしても、服はやっぱり人に着られてナンボなんでマネキンを使った展示では真価が掴めない。少なくとも街にこーゆー服を着て歩いているひとがいなかった所を見ると、極めて実験的先鋭的な部類の服だったんだろー。美の枠組みをスライドするなりブレイクしたいってな思想は分からないでもないけれど、細い胴体の服が未だに美しいとされるくらいに「美」はなかなかに頑固だからなー。

 芸術の部の方では「デパートガール」ってゆーか案内嬢を山と集めてショーウィンドーに並べた動く歩道に積み重ねたりした写真で知られるやなぎみわさんが個人的な趣味もあってお気に入り。制服でミニスカートで能面みたいな顔の美人で手には手袋ってスタイルは、どうにも男のフェチな気持ちを擽るんだよね、でもって足を横にして座られたりするとその太股が目に白く焼き付くんだよね、うーたまらん。

 本来的には消費社会の象徴を消費しまくる一種の警句にも満ちた作品なんだろーけど、見た目の凄さに圧倒されて邪(よこしま)な気持ちにとらわれて、そーゆー真っ当な見方がちょっと僕にはできません、でもそーゆー見方でもいーんだけど、アートなんて。

 面白かったのはビデオプロジェクターで2つの作品を出していた人で、1階にある方のは水中をザバザバと泳ぐ水着美女が眼にまぶしかった程度だけど、地下にあった方は角を曲がって歩いて来たニコニコと笑う着飾った美女が、手にもった何やら茎の長い上に蕾のついた花らしーものをブン、と振り回して路上に止まっている車をフンサイしていく映像がとにかく衝撃的で、スローの映像とバックにながれる物憂げの気怠い音楽と美女の微笑みが瞬間に衝撃へと転じ、それでも許せてしまうあたりに美女は強しってな擦り込まれた固定観念を突かれてちょっと尻がカユくなる。

 8ミリ作品の12分くらいある作品は、女性が右腕をよっと曲げて卵でも保つような形に手のひらを上に向けてちょっぴりナナメ上に目線を向けた「まるっきりポーズ」「純粋モデル」なスタイルで、円盤の上にのってグルリと回る姿が服を変えてひたすらに繰り返されるまるで実験映画のよーなアート。

 何が起こるのかと最初のうちは眼をひかれ、すぐに繰り返しと気付いて退屈し、全体これは何だと怒りだし、やがて「これがアートなんだた」と思い無我の境地に至った果てに抱く感想は、1つにはは「服なんてたいした違いはない」ってこととで、もう1つは「服で人っていろいろに見えるなあ」ってこと。どちらに達するかはきっと女性のボディか映されている衣装のどちらを眺めるかってな、観客の視座の違いによって現れるんだろー。あたしゃどっちも。だって服のセンスは最悪だしモデルは印象派って感じだったから。

 ビデオ作品は「キュピキュピ」とかってなグループのが最高。「歌謡ショウ」を真似た美女がマイクに向かって「かんけいありまっせーん」とだけ唄う耽美な映像も良かったけれど、後に流れるリズムのある音楽をバックに宇宙船っぽいなかで美女とか変な格好に兄ちゃんとかがデラデラと動き回って終わってしまう映像の、カット割りの流れの良さと瞬間写る美女の顔についつい釘付けにさせられる。プロモーションビデオっぽいノリのこれはいったい何だろう? ちょっと期待し注目。


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