身体と表現
展覧会名:身体と表現1920-1980
会場:東京国立近代美術館
日時:1996年3月10日
入場料:1250円



 ぐにゃぐにゃとした巨大なパイプが、建物の外に何本も張り付いた特徴的な建物。パリにある「ポンピドウーセンター」は、その奇抜な外観で、当時のパリっ子たちを驚嘆の渦へとたたき込んだ。しかし流石は芸術の都に暮らす人々。エッフェル塔を名物にしたように、ポンピドウーセンターも今ではすっかり、重要な芸術の拠点として、パリ観光では欠かすことのできない場所になっている。

 現代美術の展覧会を頻繁に開催することで知られるポンピドウーセンターは、実は近現代の重要な作品を数多く収蔵している美術館として、世界的にも重要な地位にある。ピカソ、マチス、レジェといった現代美術の創始者たちの作品から、ヨーゼフ・ボイス、アバカノビッチといた欧州の現代美術家にいたるまで、実に幅広い観点から作品の収集を行っている。せいぜいがピカソ、マチスで止まっている、日本人の美術嗜好の、はるか何10年も先を行っている。

 東京国立近代美術館で開かれている「身体と表現1920-1980 ポンピドウーセンター所蔵作品から」は、その名が示すとおり、身体にまつわる絵画、彫刻、インスタレーション作品が集められた企画展だ。1階は、モデルを描き写した具象作品や彫刻作品から、次第に身体を記号化してカンバスの上に再構築する作品へと移り変わり、身体の内面を描いているような作品を経て、再び身体 そのものを描き取る作品が現れるような構成となっている。マティスにピカソにレジェといった超有名画家の作品は当然として、異端の芸術家、ハンス・ベルメールの絵画や写真作品、マグリットの「陵辱」(女体顔ね)、バルテュスの「蛾」などが並んでいるのを見て、「身体と表現」とう切り口で、これだけの作品を集められるポンピドウーセンターの慧眼に、ただただ恐れいる。

 2階の造形作品にいたっては、ポーランドの造形作家、アバカノビッチの布袋の作品や、数年前に亡くなったヨーゼフ・ボイスの布袋の作品、ニキ・ド・サン・ファールの原始的女体像などが並んでいて、ここは青山の「ワタリウム」か、それとも池袋の「セゾン美術館」かと、そんな気持ちに一瞬とらわれた。日本の国立美術館で、こうした現代作家の収集に熱心な所が、どれだけあるのだろうか。いくら日本人の嗜好が偏っているからといっても、いつまでもゴッホ、セザンヌ、ルノアール、モネ、マネ、ピカソばかりではないだろうに。

 それにしても身体というのは、つくづく芸術家の興味を引くモチーフなのだろう。自然や建物や動物を描いた作品とは違って、魂とか、精神とか、心とか、あるいは嫉妬とか、憎悪とか、そんな眼に見えないものが、作品に乗り移るからなのかもしれない。

 美人は見あたらず、仕方がないので3階のコーヒー売場でコーヒーを買って、北側の窓縁で1人飲む。眼下に首都高が走っていて、車がせかせかと走っていく様を見ながら、都会の傍観者になった感覚にしばし耽る。 


奇想展覧会へ戻る
リウイチのホームページへ戻る