リベンジャーズ・ハイ

 かたや黒犬のようなマスクを被り、全身をナイフや拳銃で武装した上に、体術を駆使して犯罪者を追い詰め捕らえる正体不明の掃除屋チューミー。こなた名家の令嬢という身でありながら、治安維持組織に身を投じ、異能を持った粛正官として犯罪者の取り締まりにあたる少女シルヴィ。

 そんな正反対の2人がバディとなって、巨大都市に暗躍する神出鬼没の誘拐犯に挑むのが、第13回小学館ライトノベル大賞で優秀賞となった呂暇郁夫による「リベンジャーズ・ハイ」(ガガガ文庫、704円)だ。

 舞台となっているのは、宇宙から飛来したともいわれる人体に有害な「砂塵」によって人口の9割が死滅し、文明がいったん滅んだ近未来の地球。砂塵は人間の体を蝕む一方で、特殊な能力を発生させることもあって、そんな異能を使った犯罪も起こるようになっていた。

 スマイリーと呼ばれる、笑顔の仮面をかぶり笑い声を上げながら出没する誘拐犯もそんな犯罪者のひとり。チューミーもシルヴィも、共に過去にこのスマイリーに家族を奪われるという悲劇を味わっていた。つまりは、同じ復讐という目的でつながった2人だけれど、別に組む理由があった。

 砂塵能力には、炎を発生させたり、物体を操ったりするような攻撃的な力もあるけれど、シルヴィが持っている砂塵能力は独特すぎて攻撃には不向きだった。防御力にも影響を与えることもあったかもしれない。いったいどんな能力なのかは読めば分かるとして、そんなシルヴィだからこそ、体術にすぐれ武器の扱いも得意なチューミーが相棒として相応しかった。

 街で掃除屋の仕事をしていた時、チューミーはカボチャのマスクを被ったボッチ・タイダラという名の一級の粛正官に捕らえられてしまった。そこでボッチがチューミーを工獄と呼ばれる収容施設に送らなかったのは、能力的にシルヴィの相棒に相応しいと考えたからかもしれない。<

 そして展開は、用心深い上に強大な能力を持つスマイリーや、スマイリーに付き従うモンステルというパワフルな男をおびき出して迫ろうとするストーリーへと進んでいく。そこでは、シルヴィとチューミーがスマイリーが配下として使う組織に近づき、懐に入り込むまでに計略があり、失敗かと思わせて裏を行くような策略があってと、丁々発止のやりとりを楽しめる。

 決して人前では脱ごうとせず、声音も変えて話す黒犬のマスクの下にあるチューミーが、いったいどんな顔立ちを持った何者で、どうしてスマイリーを恨むのかといった設定にもひねりがある。多分そうだろうと思わせて、そうだったと喜ばせてするりとそらす。結果として起こったことは悲劇だけれど、同時にチューミーが今、どういう心理でそに肉体を駆使して戦っているのか興味をそそられる。

 スマイリーという希代の犯罪者の側にも過去があって、犯罪を繰り返す理由があって絶対の正しさも、そして絶対の悪もなかなか存在し得ない社会の難しさを感じさせる。だからといって、まったく無関係だったにもかかわらず、チューミーのような悲劇を味わうよう人たちが出て良いはずはない。そういう意味でも、チューミーとシルヴィの戦いには義があった。

 スマイリーが倒され、すべてが終わって改めて誕生したバディでは、犯罪者と粛清官のペアだった殺伐とした雰囲気が取れ、理解し合った2人の共闘が行われそう。黒犬のマスクも外れたチューミーと、元から美しいシルヴィのペアはとても愛らしいだろうけれど、それはどういった関係になるのか。見た目と内心の違いも含めて考える必要がありそうだ。

 圧倒的な能力を持ち、権力もありながらカボチャの頭を持ったボッチ・タイダラ警一級粛正官にはどこか胡乱なところがある。腹に一物持っているというか。そうしたキャラクター面からの関心と、さまざまな種類の能力が発現する砂塵能力者たちのバリエーションへの関心、それらが織りなす異能バトルと謀略のドラマが今後の展開では楽しめるかもしれない。チューミーとシルヴィがそれにどう挑むのか。続きを待ちたい。


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