レギ伯爵末娘
よかったり悪かったりする魔女

 「ちょー」のシリーズが書店に膨大に山積みとなっていて、その数に恐れをなして手を出すのを差し控えている一見さんも多いかもしれない野梨原花南という作家が、それでもどんな作品を描く人なんだろうかと気になっている本好きに朗報。単独でこれ1本でとりあえず完結という話が出た。読んでいきなり知らない人たちが知ってることを当然として動き始めて戸惑うことはないので、安心して手に取って頂戴な。

 その名も「レギ伯爵の末娘 よかったり悪かったりする魔女」(コバルト文庫、419円)は、タイトルどうりに今は見習いとう身分で、魔女だったら当然そうあるべき良いか悪いかではなくって、間をとって良かったり悪かったりする魔女になりたいという意欲、というより怠惰な気持ちに漂っている女の子ポムグラニットが主人公。親元を離れて修行へと出て半年が経ったという訳で、家に帰ってお祭りに行きたいとゴネるとチャコーレアという魔女先生、宿題を出して「魔女らしいことができたら休みをとらせる」って言ったことからポムグラニットの冒険が幕を開ける。

 街で耳を澄ますと近所にあるレギ伯爵という屋敷の末娘が、継母と13人の義姉たちの下で虐げられているらしいという話があって、だったらその末娘を魔力で助けてあげるのが魔女らしいと考えて、レギ伯爵の家を尋ねてみると出てきたのが1人の美青年。庭いじりをしていた彼に子細を話すとそれはと言って屋敷の中へと案内してくれた。

 そして、この娘が末のマダーだと紹介したのが青年自身。つまりはボーイッシュな子だったということで、驚きつつもポムグラニットはマダーの所で魔女らしいことをしようとしたのもつかの間、マダーに突然の結婚話が持ち上がっからもう大変。相手はアザーという名の貴族の青年で、戸惑いつつもマダーは父親の決めたことだからとアザーの屋敷を尋ねて結婚しても良いと告げる。

 ただし。マダーはそこで隠していた自分の出生と、体の秘密をアザーへと打ち明ける。実はマダには魔女によってある呪いがかけられていて、その呪いの何ともマダーらしい現れ方にポムグラニットは戸惑いアザーはほくそ笑む。それでもそこは人のために何かしようとしてチャコーレアの所を出てきたポムグラニット。アザーも巻き込みマダーの呪いを解くべく奮闘を始めることになる。

 思い込んだらストレート。山なら壊し川なら飲み干して進むポムグラニットを筆頭に、好い加減で成り行き任せに見えて、裏であれこれ画策している魔女チャコーレア、相手がどんな呪いをかけられたってお構いなし、受け入れあげると言ってマダーに求婚するアザーとそして、飄々としているように見えて案外に、自分にかけられた呪いを気にして苛立ちを見せる可愛いところもあるマダーと、特徴の際だったキャラクターの造型ぶりがまず楽しい。

 そしてそんなキャラクターたちが、壁はあっても決して陰惨ではなく悲惨でもないシチュエーションで、頑張りその壁を超えて突き進んでいくストーリー展開は読んでとても心地よい。何人かが入り乱れて会話をしても、誰が喋ったと書かずにしっかりと誰のセリフかを分からせる描写力といい、案外に入り組んでいる話をそれでもちゃんと理解できるように描く展開力といい、なるほどコバルトでも人気のトップクラスにある作家と納得させられる。

 読み終えて、相手がどんな形だって受け入れる博愛の気持ちとか、恨みを抱いて生きることの虚しさとかいった教訓も得られる所があって、面白い話を読んだなあって気にさせられる。このままシリーズ化、という期待もかかるけれど話はとりあえず一段落してしまっているから今後は不明。あるいは高橋留美子の傑作マンガ的な設定を持たせつつ、その原因をどうにか除去しようとする展開の中で、あれやこれや事件が起こっては誰や彼やが絡んでくる物語へと、広げていくのかもしれない。

 鈴木次郎が描く表紙絵のポムグラニットはおしゃまで可愛く、マダーはどこまでもスタイリッシュで格好良い。そんな2人ぷらすアザーにチャコーレアといった面々の織りなすドラマを見たいという気を抱く人は少なくないはず。そんな期待に答えてくれるだろう可能性に希望を持ちつつ今は与えられた新しい物語が放つ輝きに、身を浸らせ喜びに気持ち高ぶらせることにしよう。


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