映画大好きポンポさん2

 2021年に話題を呼んだ平尾隆之監督によるアニメーション映画「映画大好きポンポさん」は杉谷 庄吾【人間プラモ】の原作漫画に描かれていた、映画にかけるクリエイターの情熱と、そしてのめり込みすぎるあまりに見せる常識を飛びこえる言動をより色濃く見せてくれて、観ている人に映画であり作品と向き合う居住まいを正させた。

 そんな「映画大好きポンポさん」が幾つかのスピンオフ作品と短編集、そして正統な続編「映画大好きポンポさん2」を経て「映画大好きポンポさん3」(KADOKAWA、900円)で完結した。繰り広げられるのは、第1巻から映画プロデューサーのポンポさんと共に物語の中心に座る務めるニャカデミー賞監督、ジーン・フィニの監督業にかけるとてつもない熱量を、いつもの倍増しで浴びせられるストーリーだ。

 ジーンやポンポさんたちの活躍に刺激されたか、ポンポさんの祖父で名プロデューサーとして知られたペーターゼンが現場に復帰し、ジーン監督で1本新しい映画を撮り始める。これがすさまじい。ジャン・ギャバンにデニス・ホッパーにアル・パチーノにハーベイ・カイテイルにロバート・デュバル、そしてマーロン・ブランドをモデルにした名優たちがズラリと並んで、ペーターゼンの復帰に協力を申し出た。

 だったらとジーンは脚本を書き上げ、ペーターゼンの了解ももらって撮り始めたその脇で、ペーターゼンに居場所を奪われた形になったポンポさんもまた動き始める。ポンポが通う学校(学生だったのだ!)の同級生にカメラマンの才能を持ったマズルカという名の少女がいて、ポンポはプロデューサー魂がうずいてマズルカをカメラマンに映画を1本撮ろうとする。

 その監督に指名したのがジーン・フィニ。いやいや、すでにペーターゼンの企画で名優たちが居並ぶ映画を撮り始めているのに無理だろうとふつうは思うけれど、そこは撮りたい映画があれば撮らずにいられない映画莫迦。マズルカの映像を見て彼女の撮影を活かしたいと思いポンポさんの企画にも参加する。倍増しというのはそういうことだ。

 そして始まったのは、「映画大好きポンポさん2」で繰り広げられたジーンとポンポさんとの映画監督対決よりもすさまじいジーンの働きぶり。なおかつポンポさんの映画で受けた刺激をペーターゼンの映画にも引きずって、ニャカデミー賞俳優を含む超ベテラン俳優たちが相手でも譲らず映画のために脚本を書き直してしまうから恐ろしい。それを許すペーターゼンも。ジーンの才能を誰もが認めているということだ。

 興味深いのは、そんなジーンが圧倒的な天才としては位置づけられていないことだ。ポンポさんにはプロデューサーとしてのセンスがあり、マズルカにはカメラマンとしての感性があり、ミスティアやナタリーには女優としての演技力がある。けれどもジーンは自分の能力をどこまでも映画を見続けて、分かるまで考え抜いて得た答えを記録し続けたことによるものだと訴える。凡才でも努力すれば天才を超えられる。そんな可能性を感じさせられる。努力のレベルが天才的ではあるけれど。

 結果、ひとりの才能に溢れたカメラマンが誕生し、ポンポさんの近くで燻っていた俳優が日の目を浴び、大舞台へと駆け上がっていく。そして思う。映画は本当に良いものだと。そしてとてつもなく怖いものだと。2本の映画で臨んだニャカデミー賞での圧倒的な評価をジーンはすぐさま屑箱へと叩き込む。2本の映画を駄作と断じる。天才はその時々がすべて頂点だけれど、凡才には頂点など存在せず、評価されてもそ時点での到達点に過ぎないのだ。

 そして歩み始めたジーンが次に何を作るのか。描かれることはないだろうけれど少し気になる。そんなジーンを見るにつけ、大好評だった「映画大好きポンポさん」の映画を撮った平尾隆之監督が、そこに安住しないでこの作品で新たにアニメーション映画に挑んだら、どれだけの狂気と熱情が迸る作品になるだろうが気になって仕方がない。

 観てみたい。


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