ぴよぴよキングダム

 生活感。というものが果たして、ティーンが好んで読む物語に必要かというと、それは内容やジャンルに依るものだと言えるだろう。絢爛豪華な王朝ファンタジーに生活感は不要だし、未来が舞台のSFだったら未来がどう描かれているかがまず大事。大根の値段だどうとか、今月の家賃がどうだなんて話があると、かえって興を殺がれてしまうかもしれない。

 けれども舞台を現代にした話だったら、やっぱりある程度は人間がこの社会に生きているということに、意識を向けてもらいたいもの。なにかを食べ、どこかに住んで生きている登場人物たちの醸し出す生活感が、作品で描かれている世界のリアルさを底上げする。同じ時代に生きている読者の感情を、作品世界に入れこみやすくしてくれる。

 木村航は、そんな生活感を持った作品を、ティーン向けの小説で描いてくれる作家のひとり。前作の「ぺとぺとさん」と「さようなら、ぺとぺとさん」(ともにファミ通文庫)で、人間から虐げられ差別され貧乏な暮らしに苦労しながら、それでも日々を明るく強く生きる妖怪たちの姿を描いて、異質な存在を認めたがらない人間の至らなさに気づかせてくれた。

 父親はどこかに行ってしまい、母親は今にも消え入りそうという家庭環境に生きる妖怪の少女の、貧乏な暮らしぶりがなかなかにシビアに描かれていた「ぺとぺとさん」のシリーズでは、人間は(妖怪だけど)何かを食べないと生きていけない、お金がないと暮らしていけないんだという現実を突きつけられた。強烈なキャラクターたちが織りなすほのぼのラブコメディとして面白がりつつ、そんな生活感あふれる描写に背筋がピンと立った。

 「ぴよぴよキングダム」(MF文庫J、580円)もやっぱり同様に、爆裂な設定で荒唐無稽さもある展開ながらも、登場してくる少年や少女のキャラクターに生活している感覚がにじみ出ていて、読んでいて同情心が芽生え、頑張ってくれよという応援の気持ちが沸き起こり、ページを繰る手に力もこもる。

 宇宙から来たのは3体のピッチパッチという高次元生命体。1体はチュルリラというお姫様で、残る2体はピックルにブランクという貴族たち。地球を舞台に姫を誰がめとるかで、ピックルとブランクは争うことになっていて、その方法とは、ピックルとブランクがそれぞれ人間の男性を選び”領土”にして融合し、姫が選んでよりしろにした女性をめぐって争うというものだった。

 ピックルが選んだのはごくごく普通の高校生の森山拓で、ブランクが選んだのは大金持ちの御曹司という華小路克麿。チュルリラ姫は森山拓とは高校の同級生という磐座あかりを選び出し、それぞれが地球でいうところの小鳥にそっくりな格好となって、選んだ人間のもとへと降り立った。

 いきなりの宇宙生命体の襲来に、侵略だなんだと人間たちも大慌てするかと思いきや、せっかく到来して頂いた高次の生命体、疎略に扱っては人類にとって大損という判断が働いたようで、世界の政府は日本も含めてピッチパッチを要人と認め、恋の儀式を邪魔せず見守ることにした。かくして大金をばらまいては姫=あかりの歓心を引こうとするブラック=克麿に、うまく融合できないピックル=拓が立ち向かうバトルがスタートする。

 宇宙から来た迷惑な生き物たちに巻き込まれ、三角関係のドラマを演じるハメとなった少年少女のドタバタラブコメディとして読んでも十分に面白い。スレンダーなバレリーナ体型で、喋れば突っ慳貪で他人との接触を極力避け、金のためにはチュルリラ姫との融合も、姫が選んだ相手との半年間の同居生活も辞さないというあかりのキャラクターはそれでなかなかに麗しく、そんな彼女が拓と克麿のどちらをどういう理由で選ぶのか、といった興味にも引っ張られて読まされる。

 なおかつあかりには家庭にフクザツな事情があってバイトに明け暮れなくてはならず、拓は拓で過去に複雑な事件があって今の言動に影響を与えているという、それぞれのキャラクターがこの地球、この日本で生きて来た事実がきちんと取り込まれていることが、読んでいて彼と彼女に気持ちを向けさせる。

 紆余曲折のクライマックスに感動のフィナーレと続く展開は、ラブコメにありがちな大団円といえばいえるものながら、あかりが育んできた性格に、拓が抱えてきた想いが重なって得られるフィナーレだけに、納得感の中で読み終えることができる。続くのかそれともこれで終わりかは不明だけど、これからもこうした読んで想いを込められる設定とストーリーを持った物語を、作者には書き継ぎ生きている辛さと生きていく楽しさを、感じさえて欲しいもの。頼みます。


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