オタクアミーゴス!
OTAKU AMIGOS

 前に「オタク学入門」(岡田斗司夫、太田出版、14000円)について書いたときにも言ったように、僕は断じて「オタク」などではない。

 人間は進歩する生き物だから、この1年のうちに多少は様変わりしたかもしれない。まず家にビデオが来た。毎週「機動戦艦ナデシコ」を録画して、1人でカップ焼きソバなどを食べながら見ている。先日はセガ・サターンが入った。「新世紀エヴァンゲリオン」のゲームの第2弾をプレイして、10回目だかにようやくアスカとのラブラブエンディングを迎えることができた。漫画の単行本は300冊ばかり増えたし、アニメ映画も3本は見た。

 だが、これらはいずれも仕事の上でのことなのだ。サンライズに行くのは海外展開の取材、「新世紀エヴァンゲリオン」のゲームをプレイするのは最新トレンドの調査、「ナデシコ」を見るのも「ポスト・エヴァンゲリオン」となるコンテンツを捜す活動の一貫で、アニメ映画は試写に呼び出されて行くだけの、受け身の対応に過ぎない。繰り返すが、この程度で「オタク」と名乗ったら、全世界どころではない、全宇宙の「オタク」から非難をあびること請け合いだ。

 真の「オタク」とは、「オタクアミーゴス!」(ソフトバンク、1339円)の共著者となっている3人を指す。そう、「オタク」の聖地ガイナックスの創設者にして現東大講師、自他ともに認める「オタキング」こと岡田斗司夫、古書マニアにしてヤマトファン、「タブーのエンターティナー」と名乗る唐沢俊一、アニパロ界の巨人にして「と学会」の重鎮、自称「酔狂の鉄人」眠田直の3人。人呼んで「オタクアミーゴス」こそが、世界に冠たるオタク文化発祥の地ニッポンで、その頂点に君臨する「オタク」の王、「オタク」の神、「オタク」の大盛りカツカレー生卵付きなのだ。

 であるからして、「オタクアミーゴス!」には当然のことながら、熱く、濃く、そして激しい「オタク」話が満ち溢れている。3人の自己紹介をいきなりの巻頭カラーでやってしまうのも驚きだが、世界のインターネット上のオタクサイトを巻頭で特集(それもカラー)してしまうのも、見返り無きアマチュアの果てしなき情熱こそが「オタク」の神髄と見極めた、彼ら3人の「超越者」の一大示威行為なのだ。たぶん。

 数ある特集の中で、20代後半から30代前半の、「機動戦士ガンダム」でアニメに目覚め、中学・高校・大学という多感な青年時代を、あろうことかアニメ漬けになって過ごしてしまった世代に強くアピールする特集は、たぶん「80年代バブルアニメ・チラシ大全集」ではないだろうか。「ポスト・ガンダム」「ポスト・マクロス」を待望するアニメファンに向けて、カネ余りとなっていた企業が、次々と新しい企画を繰り出して、彼らを深い奈落の底に突き落とした作品ばかりが紹介されているからだ。

 「オタク学入門」でも指摘されていたように、80年代はアニメに全く縁のなかった大手の企業も、カネになるかもしれないと考えて、やたらアニメにお金を出した時代だった。だが、「ガンダム」や「ナウシカ」や「マクロス」のようなアニメが、そうそう出来る訳でもなく、数打った鉄砲は下手もたくさんという理のごとくに、とんでもないアニメが数多く作られる羽目となってしまった。

 「チラシ大全集」には、そなアニメがチラシとともに25作品、ズラリ並べて紹介されている。「こんなのいつ作られたの」という超マイナーな作品もあるが、中には雑誌などで派手に喧伝されていた作品もあって、「これもバブルアニメだったのか」と意外な感じを抱いた。その代表格がトップに配された「テクノポリス21C」。「チラシ大全集」のトークで指摘されたように、「あの」という形容詞無しでは語れない「スタジオぬえ」が参加したアニメーションとして、雑誌などで話題になっていた。

 トーク部分では眠田直が「かなりヘロヘロの映画」「事前情報の頃が一番楽しかった」との感想を述べているが、チラシに描かれたロボットを今見ると、そんな感想もうなづける。他の作品では、「ガルフォース」「バブルガムクライシス」あたりは名前の記憶があるものの、「ルーツ・サーチ」「デルパワーX」「トゥインクルハート」あたりは記憶がない。「オタク」なら知っていて当然と言う人もいるかもしれないが、だから最初に断ったように、僕は断じて「オタク」などではないのだ。

 それにしても、拙い知識を頼りにすれば、いのまたむつみの「ファントラ」をはじめ、「アルテア」「レガシム」あたりは、チラシに描かれているのは結構売れ線のキャラだと思うのだが、それでも「バブルアニメ」の範疇に入れられてしまっているのは何故だろう。キャラだけでは売れないということなのか、それともよほど動きが酷かったのか。どちらだったのかは今となっては確かめようがない。

 「オタクアミーゴス!」ではほかにも、「SF美少女アニメ・創世記」に「REX・恐竜物語」に「ペンギンズメモリー・幸福物語」に「アクメくん」といった作品について、実に濃く、熱く、激しい会話が展開されている。横山宏が最近の「ゴジラ」に文句が言いたいからといって、岡田とともに東宝・田中友幸社長を訪ねた話も、ホンジュラスでアニメを作らないかと誘われてちょっとユラめいた話も、特撮に関することなら、アニメに関することなら、ゴシップも含めて全部知っておきたいという「オタクマインド」を巧妙にくすぐる。あるいはそうした出来事を、同時代的に体験し、あわよくばインサイダーとして現場に立ち会っていたかったと強く願う「オタク」の嫉妬心を煽る。

 唐沢俊一がかつてファンクラブを結成してプロデューサーの西崎義展を札幌まで招いた「宇宙戦艦ヤマト」の話も、これを載せれば雑誌は完売、単行本や山積みとなる「新世紀エヴァンゲリオン」についても、短いながら実に濃い話が載っている。このページ数でこの濃さなら、仮に時間無制限、発表媒体ページ無制限で、3人に「ゴジラ」と「ヤマト」と「エヴァンゲリオン」について語らせたら、1人2人死人が出ても不思議じゃなくらいの、激しく熱い話が飛び出すことだろう。どこもきっと手がけないだろうが。


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