オービタル・レディ
ORBITAL KADY

 謎の勢力によって侵略されている地球が防衛軍を結成してこれに挑む。という話だったら例えば最近改稿版も発売された神林長平「戦闘妖精・雪風」があるし、秋山瑞人「E.G.コンバット」だってそんな話だったはず。ゲームだったら一頃の話題を席巻した「ガンパレード・マーチ」なんかもあって、それぞれに見えない敵、コミュニケーション不可能な敵と戦う恐怖だったり、圧倒的な強さを誇る敵に挑む緊張感だったり、仲間たちが次々と死んでいく苦しさだったりと、さまざまな感情を読む人に抱かせ、感動をもたらす。

 一方、女性が戦闘機に乗るという話だったら夏見正隆「僕はイーグル」があるし、アニメーションの「青空少女隊」も、タイトルからしてそんな話だったような気がする。従って今、そうした話を繰り出す以上はそれこそ超絶リアルで超絶シリアスな設定を持ち込むか、逆にコミカルな世界観の上で突出したキャラクターを繰り出すなりして、読む側を圧倒して欲しいとう気がするし、そうでなければ読んで気持ちがなかなかフィットしない。

 「異星人の侵略から地球を守超国家軍事組織『地球防衛軍』。調布基地に配属された裕美は闘志旺盛な新米少尉。起動戦闘機のパイロット『オービタル・レディ』を目指す彼女は、強力なライバルたちと大空を舞台に空戦技術を競うことに……」と巻末のあらすじ紹介に書かれてある以上、高嶋規之の「オービタル・レディ」(集英社スーパーダッシュ文庫、571円)はまさに謎の勢力と戦う話であり、少女がパイロットとなって戦う話である。

 したがって感じたことはまず、前記の欲求に果たしてそぐうものであるか、といったところだけど、正直いって判断に悩ましい部分があって、読み始めて悩み読み進めて悩み、読み終えて悩みまくって今もやっぱり悩んでいる。

 異星人が侵略して来た。それは結構。日本が中心になって地球防衛軍を設置して、侵略して来る敵と戦うことになった。それもオッケー。悩ましいのはそこから先。主人公の香月裕美はその地球防衛軍に入る訓練をしている少女で、腕は悪くないけものの猪突猛進なところがあって、いろいろ壁にぶぶつかっては、その度に適切なアドバイスをもらって立ち直り、どうにかこうにか卒業して調布基地に少尉という高い位で任官した、と聞いてまず浮かぶのはどうして”ノロマででドジなカメ”がエリートばかりの地球防衛軍に入れてしまうのか、という思いだったりする。

 そうでなければ成長物語にならないよ、といえばいえないこともないけれど、何十年と戦っているシビアな状況下、潜在能力はともかく今は発展途上のドジ娘を少尉に任官させるほど、防衛軍に精神的なゆとりがあるのかによっと悩む。

 侵略者にも疑問がある。宇宙にいきなりワープアウトしてくる技術を持っている以上は、らおそらくは地球よりははるかに進んだ文明を持っているんだと想像できる。なのに地球1つ落とすのにひどく手間取っているから情けない。真正面からでは無理だと判断したからなのか、それともゲームだとでも割り切っているのか、今はもっぱら地球人に化けるとか、地球人で宇宙人にシンパシーを感じている人々を探し出しては、洗脳するなり協力してもらうなりして、破壊工作を仕掛けながらじわりじわりと魔の手を広げている。悠長なことだ。

 おびただしい犠牲を払いながらも半世紀もの間、宇宙人との闘いを繰り広げているってことはすなわち人々の意識だって組織だって相当に鍛えられて、宇宙人にシンパシーを感じている輩なんてものの存在自体を許さなくなっているのが普通の感覚、だろう。太平洋戦争下の大日本帝国よろしく治安維持法どころか国家反逆罪を作って一網打尽にしていたって不思議はないのに、何故か堂々と(でもないけど)新宿は歌舞伎街に中国マフィアの「蛇頭」よろしくアジトを構えていたりする。おまけに戦時下ならば常に厳重に警備されていて不思議はない防衛軍の基地に吶喊しては、その機能を麻痺させてしまう”大活躍”を見せてしまう。

 考えてるまでもなく、今のパレスチナとかを見ればもう、戦時下にある地域がどれだけ日々緊張感に溢れた中で生活しているかが分かる。イスラエル軍以上に圧倒的な戦力を持っているだろう宇宙からの侵略者にさらされている割には、描かれている社会にいまひとつ緊張感が乏しことが気になって、物語への没入を妨げる。それさえなければ頑張り屋の少女が成長していく物語として、自分も頑張ろうと共感したくなるし、親の娘に対する視線になぞらえて、声援のひとつも贈りたくなる。

 もっとも、作者のプロフィールから判断するに、大好きなジャンルが特撮ヒーロー物で、見る映画も「宇宙戦争」に「地球防衛軍」だというから、侵略されっぱなしの社会に緊張感を求めるというのがそもそも野暮なのかもしれない。挙げられた作品群に描かれる、侵略はされているものの街はおしなべて平穏といった感じのニュアンスを取り入れた作品として読めば、超エリートでもない直情径行型のヒロインがエースになっても不思議はないし、戦時下にある国の首相が薄ら間抜けだったりしていて構わない。

 そういうことならこの半世紀、まるで適わなかった侵略者の撃退が、続く巻で新米パイロットの裕美の大活躍でもって成されたとしても当然オッケー、ということになるだろう。ただ、いささかなりとも欲をいうなら、シリアスな状況すらも日常に溶け込ませている空想上の世界だからこそ通用する、一種の”お約束”ぶりをもう少しだけ前面に出して、読む側に”お約束”の世界なんだということを分からせてもらえれば有り難い。空戦描写の圧倒的なシリアスさ、格好良さはなかなかなもの。ならばそうした設定をより引き立てる意味からも、世界はもうすこしコミカルであって欲しい。


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