いつでもどこでも忍2ニンジャ
出会ったあの娘はくの一少女&暗殺デートは素敵にどっきゅん

 火浦功が時を超えすぎていずこへと去った、訳ではないけど時空間の狭間でオリンピックがワールドカップのごとく、何年かに1度の興奮を巻き起こす存在になってしまって、滅多なことではその純然たる新作にお目にかかれず、あかほりさとるは作品の中に萌芽としてあったエロティックなものへの関心を、大人の人々に向けたノベルズの方で爆裂させるようになって、それはそれで嬉しいものの一方で、持ち味の巨大な部分を占めていた萌えや燃えへの尽きぬけんばかりのテンションが、緩やかになってしまった21世紀。

 偉大な先達たちの沈滞が目立つヤングアダルト文庫の世界で、ひとりひたすらに徹底してギャグを追い求める、孤高の存在となってしまった感のある阿智太郎が、またもやってくれたと「いつでもどこでも忍2ニンジャ1 出会った娘はくの一少女」(電撃文庫、530円)を読んで感慨に耽る人の、おそらく100万人はいるだろうことは想像に難くない。

 突拍子もない設定。お気楽な展開。個性にあふれたキャラクター。これでもかこれでもかと繰り出されるギャグのペガサス流星拳的あるいはジョジョのオラオラパンチ的な数出しゃ当たる攻撃に、誰もが撃たれてこの世の憂さを忘れたいのだ。翌日に学校に行ったり会社に行ったり預金通帳を見たりすれば、嫌でも思い出すんだけど。

 さて「いつでもどこでも忍2忍者」は戦国の世よりタイムスリップして来た女忍者の涼葉ちゃんが、主人だったお城の殿様の藤嵐誠之進と面影を同じにたマコト少年を、主人と勘違いして大騒動を繰り広げるという話で、聞けば過去数多描かれてきた小説童話漫画のどれかかに、あったかもしれないものだけど読めばそんなことは無関係、ひたすらにてんやわんやな展開に、読者を絡め取っては一気呵成の笑いと涙の大活劇へと引きずり込んで離さない。

 過去から来た人間が現代のものに触れて戸惑うお約束展開は当然至極。メロンソーダを飲んで「この飲みものには針が入っているでござる」と吹き出し「口の中でちくちくちくちく」とぎゃーすかわめくタイムストリップ、じゃないタイムスリップ(こういう言葉もお約束っちゃーお約束、聴けば心も妙に落ち着く)涼葉の描写のそれ自体は目新しくなくても、軽いタッチでさくりと出されて読むほどに目にその様が浮かんで、知らず口の中がちくちくちくちくとして来る。

 涼葉と戦国の世で戦っていた血桜忍群の一党も、なぜか同じ時代へとタイムスリップして来ていたからこれがまたてんやわんやのしっちゃかめっちゃか。マコトとその先輩でアフロヘアで歴史に詳しい花滝の助言もあって、早い段階で事情をつか涼葉と違って、事情を察するまでに時間のかかった彼ら血桜忍群が引き起こす時代錯誤ぶりがまたたまらない。

 洗濯物から奪ってきた現代の服装でごまかそうとしたものの奪ってきたのが女性の服で、ごつい体格の虎牙(ベンガル、だそうな)を筆頭に街の人々から趣味の独特な人たちだと思われるのはまだ序の口。買ってきたハンバーガーのセットに舌鼓を打ちったその直後、飲んだコーラか何かにやっぱり「針が入っておりまする」と大騒ぎする、これもお約束的な繰り返してのギャグに笑って笑って60分、いやもうちょっとかかるかな、人によっては30分かもしれないけれどともかく読んでいる時間のうちを、笑いに浸らせてくれる。

 その楽しさは快調に出た(火浦功もこのペースで出ればなあ、大昔は出ていたんだがなあ)第2巻の「いつでもどこでも忍2ニンジャ2 暗殺デートは素敵にドッキュン」(電撃文庫、550円)でも健在どころか1段2段とパワーアップ。血桜忍群の中でも抜けていることとで左に出る者のいない”ぽけぽけ忍者”のかなでちゃんが、そのぽけぽけぶりを溢れんばかりに大発揮してくれていて、お定まりのギャグお定まりのボケお定まりのギャフンを心安らかに楽しめる。

 血桜忍群の頭目としていっしょにタイムスリップして来た血桜わに太朗の可愛さ健気さもハイパー&トランスフォーメーション、つまりは高まっているってことで、女装が似合うのも悪くはないけどそれより大文字フォントで「大嫌いになってやるうううううううううううう!!!」と叫んで、血桜忍群でも凄腕の蛇腹兄妹に、マコトの暗殺をあっさり断念させる好かれっぷりには笑えて可笑しくって涙が浮かぶ。

 相手にすれば怖いけど見方にしたら頼もしいオロチ&ミカゲの蛇腹兄妹には是非にまた出て欲しいところ、だけどやっぱり無理かもしれない。コーラにスプライトにCCレモンのどれかを飲んで地獄を口の中で爆発させせて、寝込んでしまったみたいだし。ああお約束お約束。

そんなこんなでとりあえず、血桜忍群にもマコトが誠之進ではないと伝わったものの「似てるんだったら親戚だ、親戚ってことはやっぱり敵だ」なんて言われれば納得の論理でもって、相変わらず追われることになって大変なマコト、ではあるもののさらに新しい出会いがあって、誠之進のそっくりさんなに過ぎないマコトへの羨ましさがぐんぐんと膨らむ。似ているだけでなぜモテる?

 2巻目でも未だ登場しない、南の島に行っているマコトの両親が気になるところではあるけれど、それはそれとして今は当面はとりあえずは、皆から好かれもみくちゃになって大変なマコトと未だコーラが飲めない涼葉、ぽけぽけぶりが可愛いかなでにとっても優しいわに太朗の活躍ぶりをじっくりと楽しむことにしよう。次が出るまで4年とか、オリンピックあワールドカップみたいなことがないから阿智太郎はやっぱり素晴らしい。


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