永遠の七日間

 2人のために世界はある。

 ごう慢なものいいかもしれないけれど、愛し合う女と男にとって、相手が消えた世界に意味はない。天使の意志も悪魔の企みもはね返し、結ばれたいとあがく男女の情熱に触れれば、たとえ世界が滅びても、添いとげさせたいと思えてくるものだ。

 大人の男女を魅了して、世界に1300万人のファンを持つというフランスのベストセラー作家がマルク・レヴィ。その新作で、すでにフランスで194万部を売ったという「永遠の七日間」(PHP研究所、1200円)を読めば、世界は愛し合う“2人たち”のためにあるのだと強く感じるだろう。

 創造主によって天地が創造されてからこれまで、延々と続けられていた天使と悪魔の戦いを終わらせるために、天使と悪魔のそれぞれが選んだ代理人が、7日の間に善と悪をそれぞれに行って、より多くの人を導いた側に世界を支配が委ねられることが決定した。

 悪魔の代理人となったルーカスは、不動産会社の経営者をそそのかして港湾の土地を買い占め、労働者たちから職を奪うことで反発を煽り、街に大混乱を起こそうと画策する。その港湾で労働者のために働いていたのが、天使の選んだ代理人のゾフィアだった。

 最初は互いににそれを知らずにゾフィアと出会ったルーカスは、ゾフィアとふれ合うなかで悪意しかなかった気持ちが揺れ動く。一方のゾフィアも、懊悩するルーカスに惹かれるようなり、彼が悪魔の代理人だと知っても心を切り離せなくなってしまう。

 人が虐げられ、時には死に至ることもあるルーカスの振る舞いは、なるほど万人にとって悪と認められる類のものかもしれない。だから振る舞いそのものがゾフィアに認められるようにはならない。なってはいけない。

 けれども、世界を眺め歴史をたどれば、ある常識に沿って悪だと決めつけられたものが、反対の勢力にとっては善行だったりする矛盾はいくらもある。価値観が違えば善と悪の立場もひっくり返るのだと知って、はじめて最善の道は見えてくる。

 ともに命じられて善行と悪行を成すゾフィアとルーカスの、どちらが本当に正しいのかを、即断によって簡単に色分けするのではなく、半歩下がって総合的に、相対的に判断する必要性を、物語は教え、諭してくれる。

 天使や悪魔が決めたそれぞれの価値観に従い、言いなりになって相手をねじ伏せるのではなく、お互いが尊重し合ってそして何を成すべきかを考える。そうやってルーカスとゾフィアは2人にとって最善の道を見つけ出した。

 そして2人が得た幸福は、単に2人だけのものに留まらない。敵をただ退け、己の色に染め上げるだけでは絶対に得られない境地があるのだということを、悪魔にも天使にも分からせた。悔い改めさせた。善や悪といった一方的な価値観に染めあげ、敵をねじ伏せる行為の愚かさを示した。

 そして、ともに何かを欠いた2人がお互いを埋め合って、高め合って生きていける世界の素晴らしさを見せてくれた。支配と従属の関係ではない、愛し合って求め合って生きていける世界の楽しさを教えてくれた。

 読み終えて天使に祈る。互いが互いを愛し合える世界のままであって欲しいと。悪魔に請う。恐怖ではなく理解によって人がつながっていける世界を壊さないで欲しいと。

 あとはただ願うだけだ。世界中の“2人たち”が切り離されることなく、永遠の幸せを得られる世界へと、神が導いて行ってくれることを。


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