中西夏之展
展覧会名:中西夏之展 白く、強い、目前、へ
会場:東京都現代美術館
日時:1997年2月11日
入場料:500円



 高松次郎、赤瀬川原平らと「ハイレッド・センター」を結成して、「東京ミキサー計画」にある「シェルタープラン」などの派手なパフォーマンスを繰り広げていた印象が頭にあるためか、中西夏之の作品を「絵画」としてじっくり見る気も機会もなかった。「中西の絵画に焦点を当てた」(パンフレット「はじめに」より)という、東京都現代美術館で開催中の「中西夏之展 白く、強い、目前、へ」は、だから「ハイレッド・センター」の「センター」が個として追求してきた「絵画」の世界を、包括的に見せてくれた絶好の場となった。

 1000円冊模造事件の赤瀬川原平が放つイメージが、あまりに強烈すぎるせいか、中西夏之の作品というと、どこかで出会った記憶はあるのに、どんな作品だったのかを即座に思い出せないのが情けなかったが、会場の入り口付近「A」のゾーンに並べられた、「韻」というシリーズの索引群を目にした時、即座に「ああこの人だこの人だ」という記憶が蘇って来た。

 砂地のようなキャンバスに「T」の形をした図形を焼き付けたように幾つも幾つも描いていったあのシリーズ。解説を読み、はじめて焼き付けなどではなく、エアブラシで1つ1つ丁寧に「T」を描き、なかを細筆で白く塗って仕上げた作品だったことを知った。虫が食べた跡のような、虫が這った跡のような形象が、モノトーンの作品であるにも関わらず、見ている人の心を不安にさせる。体の上を虫が這いずり回るような感じを覚える。

 それから「B」ゾーンの洗濯バサミのシリーズ。キャンバスの裏から通した針金に洗濯バサミを無数に付けていったあのシリーズは、いかにも「ハイレッド・センター」な作品で、過去に見た幾つかの作品が、強く記憶に残っていた。もっとも赤瀬川平をのぞいた「ハイ」か「センター」のどちらだったのかを、今回の個展を見るまで、即答することは難しかったに違いない。

 「C」ゾーンに入って、ようやく「ハイレッド・センター」のイメージから離れることが出来た。そして中西夏之個人の「絵画」の変遷を、たぶん初めて経験することができた。網目状に白い絵の具を塗り重ねていった「夏のための」のシリーズから、編み目が崩れて紫色がのぞき出す「紫の絵画」シリーズ、さらに緑色が加わった「緑の絵画」と移り変わっていく中西夏之の絵画は、「T」という具体的な形状から「X」そして混沌へと進んでいくのと歩みを同じくして、どんどんと優しくなっていく気がする。柔らかくなっていく気がする。

 そして最後に登場する最新作「柔らかに、還元」のシリーズでは、白と緑と紫が画面の中を飛び回り、泳ぎ回って見る者を幻惑する。落ちついた色彩であるにも関わらず、見ているうちに絵画が光を放って、まぶしさに目が眩む感覚にとらわれる。でたらめに塗られているようなそれぞれの色が、カタログの「作業譜断片」を見て計算と試行錯誤を重ねた上のものであることを知って、作家の創作にかけるエネルギーの大きさを見た思いがした。

 「総合であるとともに、常に一つの、新しい誕生でもあるのです」(パンフレットより)という説明が当たっているのだとすれば、静寂から混沌へと進んできた中西夏之の「絵画」は更に変化することになるが、ではいったい、どんな「絵画」になるのかは正直言って解らない。あまりにも「完成」し「到達」しているように見える「柔らかに、還元」からその先に、中西夏之が描き出す「絵画」の世界に、たぶんこれから一生をかけて、関心を持ち続けていくことになるだろう。

 祝日なのに観客は少なく、女性もほとんどいなかったのがちょっと残念。まあ中西夏之を見に行く若い女性ってのが多いとも思っていなかったけどね。

 
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