環境保護隊モッタイ9

 この世で何がモッタイナイかと言えば、それは末次由紀の漫画「ちはやふる」に出てくる綾瀬千早の美人顔。それだけで天下を取れるくらいに輝いているのに、生かそうとせず競技かるたの道に耽溺しては、下はジャージで上はTシャツ、それもダディ・ベアという不思議なキャラクターを胸につけて、空調のない部屋であせまみれになって戦ってみせる。

 その顔立ち、その瞳で向かい合わせの相手をジッと視れば、男子だったら有頂天になってお手つきを連発し、女子だったらあまりの違いに絶望して手が動かなくなる。けれども千早は顔を武器になんて使わず真っ向勝負で勝利もすれば負けもする。モッタイナイ。本当に本当にモッタイナイ。

 って、それはケニアのワンガリ・マータイさんが「MOTTAINAI」の言葉とともに全世界に伝えようとしたスピリッツとは違うんじゃない? という疑問はもちろん了解。今のエコ全盛な世の中で、モッタイナイは節約倹約の合い言葉。それによって環境破壊を防ぎ資源の涸渇を防ぎ、レジ袋や割りばしの利用を減らしてレジ袋メーカーや割りばし製造工場の売り上げを減らし……ちょと滑った。

 ともかく省資源と環境保護につながる「MOTTAINAI」のスピリッツを、世界はもっと尊ぶべきであり個々人も日々の生活において実践すべきであるという、そんな信条が広まればきっと世界は良くなると、信じて自ら率先しているのが矢上裕の「環境保護隊モッタイ9」(ソフトバンククリエイティブ、571円)に登場する、米倉良太という青年。零細のスーパーに入っても買うのはのり弁。レジ袋はもらわずレンジで温めすらせず、割りばしはもちろん受け取らず、冷たいままかきこみ隅々まで綺麗さっぱり平らげる。

 すばらしい。そう思われるのが世間一般の「MOTTAINAI」を尊ぶ人達。青年を環境関連NPOに誘おうとして声をかけ、青年もその道を進んで世界に「MOTTAINAI」のスピリッツを広めようとしていたところに、とんでもない奴らがやって来た。その名を環境保護隊モッタイ9。巨大すぎる建物を基地にして、すぐそばに佇む良太の元へと巨大メカを駆り、巨大ロボットまで動かしてやって来る。

 そして言う。「モッタイナイ」。若いのにのり弁しか食べないその食生活。享受可能な楽しみから背を向け、己に節制を強いるその態度を残念に思い、歓待するといっては各地に散って食材を集め、山海の珍味を揃えてもてなす。

 それは良太からすれば「MOTTAINAI」のオン・パレード。けれども環境戦隊モッタイ9にはそれがモッタイナイとは映らない。環境戦隊モッタイ9のモッタイナイとはやれるのにやろうとしないこと。そのスタンスに反発しながらも良太は、引っ張り込まれた環境保護隊モッタイ9で、メンバーたちのモッタイナイを改め、自分のモッタイナイの思想を普及させようと意欲を燃やす。

 表紙に描かれた隊長の女性のとてつもなく張り出した胸、そしてくっきりとのぞく谷間のビジュアルに惹かれて買ったようなところもある1冊は、そんな隊長の綺麗さ豊満さを超えて伝わってくるモッタイナイのスピリッツに溢れている。アフロ髪をして食べてばかりいるモモコという太った女性が、実は昔はとってもスレンダーな美女で、人気俳優から関心を持たれるくらいだったというから吃驚。それをどうして肉と脂肪で包んでしまうのか。ああモッタイナイ。

 そんなモモコががんばって、痩せてはないけど筋肉でもって痩せたふりを俳優とデートしている最中に、給仕に来たウエイトレスが太っていたのを俳優なじり、誹った声に憤り、反発していくモモコの姿と、そんな彼女を見守っていた青年が、モモコは俳優にはもったいないと啖呵を切るところに、見かけではない本質を尊ぶことが重要であり、それを蔑ろにする言動こそがモッタイナイことなのだと教えられる。

 誰もが節約をすれば消費が滞り、それに頼っているところに影響が及ぶ。いずれ節約しなければならないといっても、過渡的な段階での行き過ぎた節約はどこかにひずみをもたらし、不幸をもたらす。その機微を、例えば歓迎会のために在庫を出した商店が命脈を保ったエピソードや、外見ではなく内面の美を見ようとする大切さを示すエピソードが諭してくれる。

 とはいえしかし、巨大ロボットも含めてあらゆるメカを開発した博士が実は美少女でおまけに研究室にひきこもったまま、というのはモッタイナイし、オヤジまるだしで酒をかっくらい、女をくどく野郎も、その正体を知ればモッタイナイこと甚だしい。モッタイナイレーダーもメーターを振り切ってしまいそうになのも当然。モッタイナイの極北だ。でも気づいてしまって改めさせようと思えないくらい、その変身は衝撃的であり、完璧だったということなら、もはやモッタイナイとはいえないのかもしれない。

 親に捨てられた少女がいたり、全身をタイツで包んで不思議なマスクを被った人物がいたりと、色彩に富んだメンバーたちにそれぞれあるエピソードも重ねながら、明らかになっていく環境戦隊モッタイ9の真実。とはいえ、タイツ姿から女性らしいと見受けられるメンバーの、本当の姿が未だ不明なのは気になるところ。そしてモッタイ9を狙う謎の組織の存在も。ネットでの配信を見て確かめることも可能だが、単行本の発売を待って驚きとしてその意外性にこう叫ぶのも良さそうだ。

 モッタイナイ。


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