世界の危機はめくるめく!

 世界の危機を救う力をやるぞ。そう言われてもらうとしたら、どんな力が良いだろう?

 テレポーテーション? サイコキネシス? クレアボヤンス? テレパシー? それだけあっても巨大隕石の落下とか、超絶進歩した科学力を誇る宇宙人の主裏といった災厄にはかなわない可能性があるけれど、ここにとある少年が得た力は、瞬間移動も念動も、未来透視も念波も超えた威力を発揮して、世界を滅亡の危機から救い出した。

 いやあ凄い。こんなに凄い力なら自分も欲しい。世界の危機とか関係なしに欲しい。欲しい。絶対に欲しい。その力とは。

 スカートめくり。

 スカウテ・メツ・クーリといった何語か分からない、新種の超能力なんかじゃない。読んでそのまま、女性がはいてひらひらとさせている、あのスカートをめくりあげる力のことだ。

 その力で隕石を空に戻したとか、宇宙人を殲滅したという訳では決してない。ただ、テレポーテーションもクレアボヤンスも勝てなかった相手を退け、世界を滅亡の危機から救うことには成功した。だから最強。スカートめくり最強。

 こんな設定、古今のスペースオペラ作家もファンタジー作家もハードSF作家も漫画家も、誰も思いつかなかったのではないだろうか。つまり作者の佐藤了は、画期的にして先駆的な作家として、後生に語り継がれること間違いないだろう。

 そのタイトルを「世界の危機はめくるめく!」(ファミ通文庫、600円)という小説は、夢に現れた神様から、世界は危機に瀕してると言われ、何か力をやるからそれで世界を救いたまえと言われた宮田真吾という少年が主人公。ところが真吾は、どうせ夢だろうと考え、男の子ならではの興味を爆発させて、女の子のスカートをめくりあげる力が欲しいと頼んでしまった。

 目覚めてやっぱり夢だったんだと一安心。ちょっとガッカリ。ところが、本当に夢だったのかと学校で試したら夢じゃなかった。近くにいた女の子のスカートがぶわっとめくれ上がった。女教師のスカートもめくれ上がった。驚いた。もちろん見えた。しっかり見えた。羨ましい。でも同時に、夢で言われたように世界が危機に瀕していることも分かった。

 どうなるのか。そこに尋ねてきた住吉穂香という他校の少女。どうやら真吾と同様に、夢で世界を救う力をあげると言われたらしい。もらったのは仲間を捜す能力と、危機を察知する能力。その力で真吾と穂香は、仲間を捜して歩き回る。

 見つかったのは、バリアを張る能力を持った少年と、テレポーテーションできるオタク青年と、それから分身の術が使える犬。犬もアリなのだ。とはいえ防御と、探求と、瞬間移動と、分身の術では自分たちを守れても敵を攻めるには不十分。これでは勝てない。退けられない。

 期待された真吾の能力は、けれどもスカートめくり。スカートを、めくりあげる、力。なので攻撃は出来ない。敵は倒せない、と思ったら、これが意外やとんでもない効力を発揮して、世界を未曾有の危機から救い出した。人は見かけによらないというか、力は形によらないというか。

 どう使って、どう救ったのかは小説を読んでのお楽しみ。とりあえず、そういう力が効果を発揮する敵が来てくれなければ、どうなったのかと聞かないのが礼儀という奴だ。都合が良すぎると言われればそれまでだけれど、現れるだろう危機に対して最小限でも必要な能力を、神は与えたのだと考えれば、スカートめくりの力を欲しいと求めた真吾に、神様がツッコミもせずボケもしなかった理由も分かる。神はすべてお見通し、なのかもしれない。

 バリア使いは小学生の癖にエロく、オタクな青年は2次元方面でも対応が聞くエロへの関心が満杯。そして犬も犬なりに下から見上げたり、しゃがんだ女性の胸元をのぞき込んだりするくらいのエロさを持っている。そんな奴らからすれば、真吾の力は神業級。危険が迫ってなければきっと崇められ、奉られただろう。

 けれどもそうではない、命すら危険なシチュエーションで、スカートをめくったところで何の効果もあげられない可能性から、役立たずだと責められ咎めだてられ、普通だったら逃げ出す算段をして不思議ではないところを、妙に前向きに、強い意志を見せて立ち向かう真吾の態度があったからこそ、世界の平穏を取り戻せたのだと考えることも出来る。

 誰かを倒せたりする特別な力よりも、仲間を思い、世界を思う心という奴の方が、よほど世界平和には役立つのだと言っている物語。そう読むことも可能だ。人類皆兄弟。地には平和を。スカートには風を。

 それでも、もらえるものなら欲し力。スカートをめくる力。無理なら誰かが発露する場面を見たい力。細野不二彦の出世作「さすがの猿飛」に登場する肥満忍者、猿飛肉丸が放つ必殺の「神風の術」とどちらがより強力なのか。いつか比べてみたいものだ。そして比べる現場に居合わせたいものだ。

 ひらひらと舞い上がるスカートの下にのぞくそれは、きっと美しいことだろう。おや、蹴りが飛んできた。


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