ひ と と せ
魔女狩り探偵春夏秋冬セツナ

 袋の中に飴玉が2個。どちらかが赤で、どちらかが青だから、青を引いたらあなたの勝ちだと言われて袋に手を入れ、取り出した飴玉を即座に口に放り込んで、残っているのが赤だから引いたのは青だと答えれば、たとえ最初から赤い飴玉しか入っていないインチキ勝負だったとしても、あなたは論理的に勝利できる、かというとそうでもないところが、魔女の世界の恐ろしいところ。

 それがどう恐ろしいかは、赤月黎の「魔女狩り探偵春夏秋冬(ひととせ)セツナ」(集英社スーパーダッシュ文庫)を読んでもらえば分かるとして、まずこの作品を説明するなら、悪魔に他の人間の魂を捧げて魔法を使う悪しき魔女が犯す罪を暴き、糺す魔女狩りの魔女たちが集う学校を舞台にした、一種の探偵ストーリーだ。

 主人公は、かつてどこかの魔女によって魂の半分を奪われながら、現れた春夏秋冬セツナという魔女狩り候補生の少女によって助けられた、姫崎クオンという少年。とはいえ、魂が半分しかない身では生きていけず、今はセツナの下僕となって身の回りの世話をする代わりに、セツナから魂を分けてもらって、命を保っている。

 魔女狩り候補生たちが繰らす居館の裏手にある円塔、足の踏み場もないくらいに汚して暮らしているセツナには、クオンのような下僕が必要。ふだん歩いていないからか、それとも別の理由からか、体力にも乏しいセツナが外に出るときなど、クオンはセツナをおんぶしたり、だっこしたり人力車に乗せて、事件の現場や聞き込み先へと連れて行く。

そして今回、セツナとクオンが挑む事件とはは、セツナが暮らす屋敷の側にあって、下僕のクオンが暮らす馬小屋をクオンのクラスメートの淵名希美という少女と、忍頂寺誠という少年が尋ねてきた夜に起こった、ひとりの少女が顔をぐちゃぐちゃにされ、手足を焼かれた姿で殺されていた、というもの。すぐに少女は淵名さんだと分かり、そして誰がいったい彼女を殺したのかを突き止める捜査が始まる。

 そこの現れたのが、背が高く巨乳の持ち主で全身をチェーンやペンダントで飾り、皮の手袋をはめ右目に眼帯をして、その上を抑えながら苦しい声で「<リシャオースの邪眼>よ怒りを沈めろ」と中二病まるだしの言葉を放つ<邪気眼刑事>こと倶利伽羅魅美。セツナをライバル視しつつも、外に出る時は少年のような恰好をするセツナに気があるらしく、時にセツナに協力もしながら捜査を進めていく。

 そんな最中、演劇部の部長でいつも男装している篠崎香弥が倒れていた密室で、やはりクオンのクラスメートだった井藤雪恵という少女が顔を砕かれ、手足を焼かれて殺される事件が起こる。現場を見れば、犯人は篠崎部長しか考えられない。しかし彼女には1人目の事件の時にアリバイがあった。ならば近くにいた久留米という副部長か。やはり同様にアリバイがあった。

 行きづまる捜査の果て。さらに事件が起こり、その先に浮かび上がった真相は、ある魔法の力の存在と、そして憎む心と愛する心のすれ違いから生まれた悲劇だった。

   魔法という、現実世界では存在し得ない力を盛り込むことによって、誰が犯人かということに加えて、どんな魔法が使われているのかを推理する楽しみもあるのが、こうしたファンタスティックなミステリーの特徴。なおかつ、そうした力が本当に存在するのか、本当に使われているのかといった選択肢もあって、幾重もの可能性から真相を割り出す楽しみがある。

 また、魂の半分を奪われたクオンが、事情があって女装した姿を見た美月・リズワルド・エアリアンロッドというセツナとは旧知らしい少女が呟いた、誰かの名前らしい言葉と、そんな女装した自分の顔立ちを、クオン自身がどこかで見たらしい記憶が、単純に悪い魔女によって魂を奪われた訳ではなさそうなクオンの事情、その彼を助けたセツナの事情などが想像できて、それらが明らかにされる展開を期待したくなる。

 傲岸不遜な性格ながら、散らかした部屋に現れるゴキブリを怖がる可愛らしさもあるセツナという、キャラクター性にもビジュアル性にも事欠かないヒロインに留まらず、インスペクターとして学園内の秩序維持につとめる美月、研究室に引きこもりながらコンピュータを駆使してあらゆる情報を集め、口を開けばネラーな言葉しか話さず、首に魔法の力を溜め込む大きな枷をはめたイリアドゥスという少女といった具合に、特徴を持った登場人物たちがそれぞれの役割を果たす姿も楽しい。

 とりわけただのお騒がせ役だと思われていた倶利伽羅魅美が、案外に役に立つ存在で、さらに意外過ぎる正体を持っていたことにも、裏切られた驚きと、上を行かれた喜びという複雑な感情を味わえる。セツナとその魅美との飴玉の色を当てるやりとりにも要注意。そこに事件を解決する糸口が潜んでいる、かもしれないから。

 たぶんこれからも事件は起こり、そこにセツナとクオンは乗り込んでいくだろう。そんな事件で使われる魔法の種類、ほかにもありそうなキャラクターの意外な属性、そしてクオンという存在の正体などを、物語の中に散りばめられたさまざまなヒントから想像し、ブランクを埋め、真相に近づいていく楽しみを、これからの展開で味わおう。


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