魔法使いは終わらない 傭兵団ミストルティン−七人の魔法使い

 圧倒的な速度で進撃しては、その馬体が持つ質量で立ちすくむ雑兵どもを蹴散らし踏み潰し、馬上からの槍で逃げ惑う武士たちを串刺しにして勝利する。そんなイメージが浮かぶほどに戦国最強を伺わせた武田の騎馬軍団を、織田信長は柵や壕を築くことによって足止めし、大量の鉄砲から銃弾を浴びせることによって打ち倒して壊滅へと追い込んだ。

 騎馬軍団とて鉄砲の威力は知っていただろうけれど、一挺二挺の銃では放たれる弾など当たらずそして新たな弾を込めている間に蹴散らせると侮っていた。けれども何百発の弾が一度に放たれればいくら高速で、そして散会して進撃していてもどれかに当たる。当たれば倒れ後から来たものも止まってやはり狙われ打ち倒される負の連鎖。精鋭たちは次々に戦死していった。

 そんな精鋭たちを打ち倒したのは刀も槍も持ったことがないような雑兵たち。手にした銃を構えて引き金を引くだけで、弾は放たれ的は倒れる。道具としての銃であり道具としての雑兵を束ねることによって戦国時代の戦の形は大きく変わり、やがて戦争というものを近代兵器の集合による総力戦へと誘っていった。

 それは必然だったのか。騎馬軍団は銃の前にまったくの無力だったのか。その機動力を活かしつつ銃弾を防ぐ手立てを講じることで、新しい戦の形は作れなかったのか。考えても歴史の上に答えはないけれど、八薙玉造による新シリーズ「魔法使いは終わらない 傭兵団ミストルティン−七人の魔法使い」(ダッシュエックス文庫、610円)の中に、旧態依然とした戦力が最新鋭の武力を退け勝利するためのヒントが描かれている。

 かつて全盛だった魔法だけれど、銃器が広まり大量に揃えて撃てば一騎当千の魔法使いであっても、銃兵たちが放つ大量の弾を避けられず穴だらけにされる時代が到来した。結果、魔法で栄えた継承帝国は魔法を持たずとも銃で武装した各国の侵略にあって崩壊し、その後しばらく分裂した中で諸侯として残っていたハートフォード公国も、銃器を揃えたスアード都市連合の侵略によって滅亡する。

 その公国に生まれ育ち、火の一位として<殲光>というとてつもない爆裂……ではなく炎の魔法を使えるリオノーラ姫は生き延び、パルチザンのようになって追っ手を退け反抗を繰り返すものの手勢は少なく、追い詰められてやがてリオ姫だけがひとり残される。そんな彼女の前に現れたのがシャノン・ベオーク・プリマスという男。自身が率いるミストルティンという傭兵団にリオ姫を引き入れようと画策し、やがて彼女の故国だった場所を攻めようとする東部同盟の大軍勢と対峙する。

 リオ姫が大義に忠実で正義に真っ直ぐでありながらも敵は容赦なく、<殲光>の魔法を放って何十人何百人でも一気に焼き滅ぼすところに鉄球姫エミリー級の猛々しさを見る。シャノンの言うことはとりあえず信じているか、信じ込むことにしているようで、実は騙されていて利用されているだけなのかもしれないと感じていても、味方するに値すると感じた以上は逃げず、怒らずに共に戦う柔軟さも持っている。あまりないヒロイン造形。信念を持って愚直を貫いているあたりに目新しさを感じる。

 ほかに氷を扱う魔法使い、鉄に強度を与えられる魔法使いが前線に立ち、リオ姫も加えほかに天候を操ったり癒やしを与えたりする魔法使いもいるミストルティン傭兵団が、シャノンの指揮のもとで2万5000人もの銃兵と対峙するクライマックスが圧巻。実質はたったの4人でどう戦うのか。最強と謳われた武田の騎馬軍団が織田信長の前に壊滅したこと以上に戦力差もあって厳しい条件を、どうやってくぐり抜けていくのかに興味を引かれる。

 シャノンは知恵を巡らせ戦術を組み立て、魔法使いの能力をうまく組み合わせることでどうにか序盤戦を耐えては相手を本気にさせること成功する。そうやって敵を誘いつつ、本当だったら逃げる気満々だった雇い主すら戦場へと引きずり戻して、圧倒的な勝利へと向かっていくところにシャノンの軍師的才能が見える。もっとも、彼がどのような魔法使いかは未だに不明で、その出自にも大いに秘密がありそう。おそらくはとても高貴だった家柄で、そして父母や兄弟姉妹を殺され、復讐に内心を滾らせるといった感じだが……。

 そんなシャノンと、純粋で強いリオ姫とがいつまで組んでいけるのか。政略的に興亡が確定してる情勢を数人の魔法使いが戦術の積み重ねで逆転できるのか。結果も含めて先が気になる。完結まで続いて欲しいと切に願う。


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