その色の帽子を取れ−Hacker’s Ulster Cycle−

 あらゆるシステムが、ネットワークを介して繋がっている便利さは、ハッキングされる恐怖も同時にもたらした。信号機を制御するシステムや、飛行機を管制するシステムが乗っ取られたら何が起こるのか。想像するだけで恐ろしい。

 そんな事態は起こらない。システムはセキュリティでしっかり守られているといっても、ハッキングの技術も日々進歩している。守っても破られる繰り返しが続くのが、サイバーセキュリティの最前線だ。

 そんな世界で日々戦っている者たちを描いたライトノベルが、梧桐彰の「その色の帽子を取れ−Hacker’s Ulster Cycle−」(電撃の新文芸、1300円)だ。 企業には属さず、高性能のセキュリティ製品を売っているショウは、かつて一緒に製品を作った、サクという名の天才プログラマを探していた。

 サクは、ハッキングを防御するだけでは手ぬるいと、士郎正宗の漫画で押井守監督や神山健治監督がアニメにもした「攻殻機動隊」の攻性防壁のように、ハッキング元をAIで割り出し、攻撃する仕組みを世に広めたがっていた。だが、相手を間違え攻撃する恐れのあるシステムは受け入れられず、導入のメドが立たない中でサクは失踪してしまう。

 そのサクが、密かに世界を攻撃する準備を進めていることをシュウは知る。武器を積んだドローンを遠隔操作で飛ばし、自分の行方を知っていそうな関係者を殺害して回る。シュウは、ビッグデータを駆使して、サクの嗜好から居場所を突き止めようとする。

 企業におけるハッキング対策の手法や、情報技術の進化が可能にする犯行の形などを見せてくれるストーリー。そこに、両足と片腕を失った車いすの謎めいた女や、性別不明のボディガードが絡んで、恋愛やアクションといった要素が乗ってくる。

 車いすの女性の正体は残酷にして凄絶で、性別不明のボディガードには悲運とも言える状態が待っている。そこまでの状況にサクがどうして踏み込んでいいったのか。憤りの一方でやむにやまれぬ心情もあったのではと想像したくなる。とはいえ、残酷で残虐なのは許せない。だからこそショウに頑張って欲しくなる。

 サイバーセキュリティの専門家が、既存技術のみで描いたスリリングなエンターテインメント小説。「攻殻機動隊」ほど先を言っていないものの、すぐそこに来ているか、もしかしたらとっくに来ているかもしれないハッキングの闇に触れて、同時に対応について考えるきっかけをくれる物語だと言えそうだ。


積ん読パラダイスへ戻る