アンソニー・カロ
展覧会名:アンソニー・カロ展
会場:東京都現代美術館
日時:1995年8月5日
入場料:1500円



 東京都現代美術館に行くのは、これで2度目となる。1度目はあの、地下鉄にサリンがまかれた日だったから、かれこれ5カ月近くが経っていることになる。春先の、まだ風が冷たい季節だった前回とは打って変わって、この日は気温が35度をはるかに越える、真夏の土曜日だった。

 木場から歩いて15分位だろうか、東京都美術館の偉容が目に入って来た。入り口横にある彫刻には、子供達が上って遊んでいる。あれがカロの作品だと知るのは後になってからのことになるのだが、そのときは気にもとめずに、中へと入った。

 何、1500円、高いぞと思いつつチケットを買って展示場へを足を踏み入れる。「3階からです」というもぎり嬢の声にうながされてエスカレーターで3階へと上る。前回来たときにはあまり感じなかったのだが、改めてみて3階の壁のチープさが気になった。ベニヤ板っぽい作りはやめてほしかったなあ、そう思いながら展示場にむかうといきなり船越桂の彫刻。そういえば、前にモデルにアンソニー・カロを使った彫刻があると聞いたことがある、ああ、これがそうかと思いながら、いつものようにその彫刻を5分ばかりながめていた。

 最初の展示室にある彫刻は好きでなかった。そう、肉感のある男や女の彫刻で、原始彫刻、日本の土偶といった感じだった。第2室から始まった鉄とパイプの組み合わせによる彫刻が、僕の知っているカロだった。

 鋼とは何と暖かみのある素材なのだろう、なんと柔らかい素材なのだろう。カロの彫刻をながめていると、そんな気持ちにとらわれる。アメのようにまがっているからではない。色が塗られているからでもない。錆のういたような赤茶けた彫刻ですら、暖かみ、や柔らかみを僕に感じさせる。そう、フォルムなのだ。ちょっとした組み合わせが、暖かみと柔らかさを与える形を作り出している。

 どうやって立っているのか不思議な彫刻は「5月」とう題名がついていた。アルハンブラ宮殿、カリーフの庭といった題名の彫刻は真鍮の金色の輝きが美しかった。何よりもフォルムが素晴らしかった。

 石積みの庭に経つサボテンのような緑色の彫刻群は、天然木にも似た生命力を放っていた。木でしか出来ないこともあるが、鋼にしか出せない暖かみもあるのだと、そのときぼくは気付いた。


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