純愛を探せ!

 これは良い。GA文庫大賞で奨励賞を受賞した速水秋水の「純愛を探せ!」(ソフトバンク・クリエイティブ、610円)がとても良い。とってもとっても面白い。

 話はどちらかといえばオーソドックス。姦淫と虚言にかけては魔界でもトップクラスの地位にあって、天使を相手に大暴れしてきた魔神カルマ。魔王の覚えもめでたいようで、魔王の娘のレイナから求婚を受ける身になっていた。

 とてつもない顔立ちだったらまだしも、魔界にあって誰よりも美しく、天使だって見ほれるくらいの美少女というレイナ王女。その求愛を、なぜかカルマは恐れて逃げ出そうとする。それもそのはず。誕生日のお祝いにと蠢く触手の束を送りつけてきたレイナ王女。撃退するのにとてつもない労力を払わされたのだから、カルマとしてもたまらない。

 そして、そんなこと以上にカルマは、長い姦淫と虚言の日々に、誰かを力でもってねじ伏せる暮らしが心の底から嫌になっていた。

 純愛したい! 純粋な愛を見つけたい!

 そこでカルマは、召使いのリビエラとともに地上に降りて、純愛探しを始めようとする。もっとも、純愛なんて生まれてこの方5億と3000万年、したことがないというカルマ。どうすれば良いのか分からないと、地上を歩き回っていたところで、悪漢に絡まれていた少女を見つけて心を激しく動かされる。

 助けたい。いたわりたいと思ったそれが純愛心。光楼院カナデという名だった少女に結婚したいとその場で告げては、ごめんなさいと謝られ、放心していたところをリビエラに1度で諦めるのかと叱咤され、魔王の力を使って強引に行かなかったからこそ純愛を育む余地は残っているのだと諭されて、カナデが通う学校へと入学し、同級生から始めようと乗り込んでいく。女子高であったにも関わらず。

 こうして始まった魔神カルマの純愛奪取作戦は、天使の側に立つキアラという名のカナデの幼なじみの邪魔が入り、カナデ自身にも許嫁がいてそれがとことん良い男だったといった具合に、多大で絶大な障害が入る。婚約については、没落気味で格式も低いカナデの家を救う起死回生の策だと家族も後押ししていた上に、裏で天使の企みも動いていて、軽々には解消が不可能だった。

 けれども、そこで1番大切なのがカナデ自身の心ということで、とてもナイスガイの婚約者がそのナイスガイぶりを発揮して、どうにかまとまりかけた段になってカルマにとって最悪最凶の災厄が訪れる。その名はレイナ王女。果たしてカルマはカナデと結ばれるのか。それとも命を失うのか。

 といった感じの展開が、軽妙な語り口と巧みな会話で綴られていて、ぐいぐいと読んでいける「純愛を探せ!」。冒頭からして『真実の愛を探しに人間界へ旅立ちます。探さないで下さい−カルマより。』「何でしょう? この頭の悪い中学生並の文章は? 実に不快です。ビリビリ」「うわあああああ! 俺が一晩かけて書き上げた書き置きを八つ裂きにするな!」という書き出しで、リビエラに口で「ビリビリ」と言わせている辺りから醸し出されるそこはかとない可笑しさが、作品への興味をかきたてる。

 純愛なんてものを追い求める中学生並の青臭さが、現れ漂って不思議ではない物語なのに、読んでいて肌寒さを感じないですむのも、そうした言葉使いの巧みさがあるから。ギャグもあるが、内輪ネタとか時事ネタとかに取り込まれないでスムーズに流れていくから、読んでいて辟易とはさせられない。

 キャラクターの造形もどれもしっかりしていて無理がない。イラストも美麗。とくにレイナ王女。どうして素直に惚れないのか? そうカルマに聞きたくなるくらいの美しさだが、触手が大好きで乱暴者ではさすがに……。そこはそれ、お姫さまならではの純粋さというものが奴がカルマへの思いに重なって、ああいった態度を取らせたのだとも理解できるかもしれない。彼女もまた純愛を貫こうとしていたのだ。

 魔王の教育も入って、すこしは人間並になってくれそうなレイナ王女が加わって、今ふたたび始まるだろうカルマ争奪戦の第2幕に、新たに絡む存在は果たしてあるのか。天使あたりが何かをやって来たりするのか。続刊が楽しみで仕方がない。


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