ジョーカーズ!!

 池袋の街で、ぶっとんだ奴らが入り乱れて大騒ぎする物語といったら、真っ先に思い浮かぶのが成田良悟にる「デュラララ!!」シリーズだ。裏の顔を持つ少年、刀に呪われた少女、自動販売機を投げ飛ばす兄貴に首なしライダーの女といった、トンデモないキャラクターたちの喧噪に満ちた日々が書かれた小説で、アニメーションにもなってビジュアル的にも楽しませてくれている。

 それよし少し前だと、直木賞作家の石田衣良による小説で、宮藤官九郎脚本のドラマも話題になった「池袋ウエストゲートパーク」シリーズがあった。妖怪変化の類は出てこないけれど、キレた奴らが集まっては繰り広げる喧噪の日常に、人情も絡んで読ませた。いずれ劣らぬ人気シリーズが並ぶ“池袋もの”。そこに新たに参入してきた勇気ある1冊が、ノギノアキゾという新鋭による「ジョーカーズ!!」(ダッシュエックス文庫、620円)だ。

 スマートフォンとアプリが全盛となっている時代に登場した作品だけあって、それらが物語に大きく関わってくるのが、他の“池袋もの”とは違った部分。「ジョークスター」というアプリがあって、これをスマホにインストールして起動させると、極めて低い確率ながらも、スキルと呼ばれる一種の超能力が使えるようになる。

 当然のように、スキルを悪いことに使う奴らが現れたため、「ジョークスター」は世界各国で違法アプリとして認定されることになる。それでもインストールする人は後を絶たず、スキルを使ってイタズラを仕掛ける集団までもが池袋の街に現れた。それが「IKB椿屋ポッセ」だった。

 そのイタズラでは、ひとりの少年が標的にされた。勝島我門という名の彼は、極度のビビリ屋で、リアクションがとにかく派手で面白かったことから、「IKB椿屋ポッセ」に事あるごとにちょっかいを出され、その様子を「ジョークスター」が持つ機能によって、全世界に生配信されていた。視聴者数はうなぎ登り。我門はある意味でネット界のスターになっていく。

 こうなると「IKB椿屋ポッセ」も止められない。その日も池袋の街を歩いていた我門の周囲に生魚を泳がせ、慌てさせ,驚かせる。そこに通りがかったのが祈雪菜という少女で、彼女から差し伸べられた手に引っ張られ、かけられた言葉に勇気づけられた我門は、実は人気声優で、ネット上に流れた事実無根のスキャンダルによって、熱狂的なファンから裏切られたと誹られ、殺害予告まで出されてしまった雪菜を守ろうとして立ち上がる。

 とはいえ極度のビビリ屋で、「ジョークスター」を使って出せる能力も、風船をふくらませ、水鉄砲を撃つ程度だから、巨人を操り雪菜を襲うストーカー相手にはまるで歯が立たない。そこに割って入ってきたのが、因縁の相手とも言える「IKB椿屋ポッセ」だった。汐王という名のリーダーをはじめ凄腕のスキル使いが我門を支え、強大なストーカーへと立ち向かっていく。

 ここで、世界中から大爆笑をかって来た我門への注目がものを言う。「ジョークスター」には動画配信サイトにあるような「ウーピー」と「ブー」のカウンターがついている。拍手を贈る「ウーピー」が増えれば増えるほど、スキルのレベルがアップしていく。ヘタレくせに少女を守って戦う我門への関心と同情が、彼を最強のスキル使いへと変える。もっとも、ネットの評価は一瞬で裏返る。少しでも反感を買えば一斉にブーカウンターが押され、レベルも最低なものに下がってしまう。

 雪菜を狙うストーカーが巨大化する異常な力を手に入れたのも、人気声優のスキャンダルを怒ったファンの「ウーピー」を集めたからだった。そんな、数にものを言わせるような影響力を持ちながらも、移ろいやすいネットの評価というものの有り様を語りつつ、どう前向きに受け取って自分の力に変えていくのか、そして正しいことに使っていくのかを考えさせてくれる設定だ。

 悪目立ちをして一瞬の人気を得ても、飽きられればそれでおしまい。そんなネットの世界でどうすれば長く、そして正しく活動していけるのか。YouTuberなどと持てはやされている者たちが直面してる問題を、物語を通じて問われる。自分だったらどうするか。自分を貫き通すことしか出来ないのならそれも良いだろう。取り繕ったところで嘘はすぐにバレるのっだから。弱いけれど強かった我門の姿から、そんことを思わされる。

 雪菜を狙っていたストーカーは撃退され、そして「IKB椿屋ポッセ」と我門との共闘関係も終わって、イジりイジられるような関係が復活して池袋の街を再び賑わせ始める。ひとりにひとつしか使えないはずのスキルを、どうして我門だけがふたつ同時に発動できるのか、といった謎は残ったまま。喧噪が続く池袋で我門はどんな言動を見せて「ブー」を「ウーピー」に変えて成り上がっていくのか。見守りたい。続きと共に。


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