覆面作家の愛の歌

覆面作家の愛の歌

 北村薫さんを最初に読んだのが「空飛ぶ馬」で、次が「覆面作家は二人いる」でした。その時はまだ、北村薫さんがどんな人か知らず、もしかしたら「覆面作家」の新妻千秋さんのように、見目麗しい女性なのかもしれないと、胸躍らせていたものです。

 もちろん実際の北村さんが、40歳をとうにこえたおじさんだったと知ってからも、「バッキャロー」と本を投げ出したりはせず、ずっと読み続けています。最新刊の「覆面作家の愛の歌」(角川書店、1200円)も、北村さんはもう「覆面作家」ではないと知りつつ、やっぱり買いました。

 家にいるときは内気なお嬢様、外に出ればべらんめえ調のお姐ちゃんになって、難事件を次々と解決する千秋さんは、今回も変わらず大活躍です。収められた3編には、それぞれユニークなトリックと謎解きが用意されていて、ケーキやシェイクスピアに関する蘊蓄とともに楽しめます。「推理世界」編集者として千秋さんを担当している岡部良介が、タイトルにもなっている「覆面作家の愛の歌」で千秋さんから受けるひどーい仕打ちには、男だったらきっと涙します。しくしく。

 またこの中編集から、新しいシリーズキャラクターとして、月刊「小説わるつ」の歌って踊れる編集者、静美奈子さんが登場して、話に彩りを添えてくれます。

   表紙は、高野文子さん描く振り袖姿の千秋さんです。大金持ちのお嬢様っていうから、マホガニーかなんかの巨大な机に向かって、万年筆で書いているのかと思っていましたが、表紙の千秋さんは、電気スタンドが一本立っただけの質素な机に向い、ペラの原稿用紙に鉛筆でさくさくと書いているようです。

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