ウォー・ジェネレーション
放課後防衛隊

 ごくごく普通の学園生活。漫然と過ぎていく日常の中でのんびりと生きていた小鳥遊有海の暮らしが、ある時を境に一変する。

 好きで良く見ているネットのサイト。連載されているのは物語。宇宙から迫る危機。対抗できるのははるか昔に地球へとやって来た宇宙人の遺伝子を受け継ぐ少女たち。そして少女たちは防空隊を作って過酷な闘いへと身を投じる。

 パイロットには戦死者も相次ぐ。これで負けたら明日は来ないという瀬戸際まで追いつめられる。けれども逃げられない。逃げたら自分の大切にしている人たちが傷つく。世界が滅び去ってしまう。だから少女は闘う。闘い続ける。

 どきどきわくわく。興奮して楽しみながらネットをながめていた小鳥遊有海の目に、飛び込んできたのは「防空隊、隊員急募」の文字だった。これっていわゆるオフ会って奴? とりあえず出かけてみた小鳥遊有海は、おんぼろバスに乗せられトンネルをくぐって知らない場所へと連れて行かれる。

 見渡すとそこには、ネットの物語に書かれていたように熱核兵器によって焼き払われた荒野がひろがっていた。地下には格納庫があり、ネットに登場する宇宙戦闘機が並び、そしてクラスメートの少女が整備班長として睡眠時間も惜しんで仕事に没頭していた。

 敵はいた。人類は闘っていた。ネットに連載されていた物語は本当だった。そして小鳥遊有海は迷う。闘いに身を投じるべきか、それとも平凡な日常に逃げるか、を。

 パターンとしてはありがち。2006年春から始まったテレビアニメーション「ゼーガペイン」で繰り広げられている主題にも重なるこの物語は、柿沼秀樹による「ウォー・ジェネレーション 放課後防衛隊」(GA文庫、590円)という小説だ。

 もともとはOVAムーブメントの創世記に作られ、大勢のファンがついたアニメシリーズ「ガルフォース」のために考え出された設定だという。遙か昔、地球が進歩するまで守ってやるとオーバーロードが定めた安全保障条約が1999年に失効して、宇宙から大敵がやって来るようになった21世紀を舞台に、火星に取り残された少女たちがオンボロ宇宙機を整備して孤軍奮闘するという話だった。

 それがアニメでは分かりやすさを求められ、スペースファンタジーの「ガルフォース」へと変えられ発展を遂げた。一方で当時の想いを忘れていなかった柿沼秀樹が、おおよそ20年を経てアイディアを復活させて原点回帰を図ったのが、この「放課後防衛隊」ということになる。

 「ゼーガペイン」に限らず、秋山瑞人「イリヤの夏、UFOの空」ほか、自分たちの預かり知らないところで、人類の存亡が掛かった激しい闘いが起こっているという設定自体は、とても魅力的なものらしい。ほかにもいっぱい書かれていて、ひとつのジャンルを形成している。

 問題はだから、この怠惰な日常がぐるりと反転して、心のどこかで望んでいた非日常へと足を踏み入れた時に、あなただったらそうするのか、私だったらどんな行動を取るのかというドラマをどこまで描けるのか、といった部分になるのだろう。そこでは作者の力量が物を言い、作品の成否を決定づける。

 「放課後防衛隊」の場合は割とストレートな展開で、非日常の世界へと入り込み、誰かから頼りにされることで目ざめる”正義の心”といったものが描かれる。ただ”正義に殉ずる”ほどには潔く闘いに身を投じないのが主人公の特徴であり、作品の雰囲気の独特さといえるだろう。

 熱血系の主人公なら「私がやらなきゃ誰がやる!」といった感じにひたすら前向きに、闘いへと身を投じるはず。けれども「ウォー・ジェネレーション 放課後防衛隊」の小鳥遊有海はなかなか闘いに身を投じない。自分とは関係のないこと。けれどもちょっぴり気にはなる。そんな優柔不断ぶりを発揮して熱血を期待していた向きを苛立たせる。

 世界のどこかが宇宙からの侵略によって削られ、何億人も死んでいて、闘う仲間たちからも続々と戦死者が出ているという”現実” を突きつけられても、わたしは別に良いですからと、最後の方まで思い悩んでいたりする小鳥遊有海。そんな所が現代っ子感覚というのだろうか。あるいは個人主義というものか。

 アニメの「ゼーガペイン」もシリアスな設定の割に主人公の意識は比較的脳天気。 イリヤの夏、UFOの空」の淺羽も世界の滅亡を遠くに感じながら、日々の学校生活を平時と変わらない態度で贈っている。これが今風の感覚というものなのか。それとも小鳥遊有海がシャイなだけなのか。

 ここには自分の居場所がある。自分はここにいても良いんだと思い抱いて立ち上がる。分かりやすさで言うなら、そういった展開の方が好まれる。もっとも、そうやって熱血気味に前向きに戦地へと飛び込んで、興奮の中に自爆する輩もいたりする。何となく必要とされてるんだと気付いて、何となく闘いに身を投じて来た者が、だんだんと強くなっていく方が、使う側にとっては有り難いのかもしれない。

 いずれにしても開幕したばかりの物語。まだ続く闘いはとてつもなく過酷で勝算も乏しいが、そんな苛烈さを乗り越えて人類がつかむだろう未来がどんな姿で描かれるのか、そんな向かって少女たちはどれほどまでに熱い闘いを繰り広げるのかに、注目しつつ続きを辿っていきたい。


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