豊饒の地

豊饒の地

 フェイ・ケラーマンの「ピーター・デッカー&リナ・ラザラス」シリーズ第3弾、「豊饒の地」(創元推理文庫、上下各550円)がようやく出た。

 ユダヤ教のコミュニティーという、一風変わった舞台設定に惹かれて、「水の戒律」と「聖と俗と」を買ったのが93年末のこと。帰省のお供に「水の戒律」だけを持って出かけ、新幹線の中で読み始めたらとまらない。新幹線から乗り換えた地下鉄でも読み続け、結局その日のうちに読了してしまった。

 それからが苦痛の6日間。自宅に置いてきたシリーズ第2弾の「聖と俗と」を早く読みたくてたまらず、悶々とした年末年始を過ごす羽目となった。自宅に帰ってから一気に「聖と俗と」も読了し、あとがきにシリーズが6作まで出ていると書かれてあるのを見て、半年に1冊くらいのペースで翻訳されるだろうと楽しみにしていたら、1年半が経ってしまった。

 「水の戒律」では、ユダヤ教のコミュニティーで発生した事件をきっかけに出会った刑事デッカーと敬虔なユダヤ教徒のリナが、捜査が進む過程でお互いに惹かれ合っていく様が描かれていた。「聖と俗と」では、一段と深い仲へと進展するものの、価値観の違いから確執が生じるようになり、冷却期間を置いたほうがいいと、リナはニューヨークへ移り住んでしまう。両作品とも、事件を解決していくという刑事物としての筋立てがしっかりしている上に、デッカーとリナの純愛物語という要素が加わって、謎解きの面白さとはまた違った、小説を読む楽しさを味わうことができた。

 「豊饒の地」でも、デッカーが難事件に遭遇し、これを解決していくというストーリーに、ニューヨークから一時的に戻って来たリナとのラブストーリーが絡むが、今作品ではさらに、デッカーの過去が明らかにされ、その過去にまつわる友人との愛憎入り交じったやりとりが加わってくる。ベトナム戦争での体験が、2人の男の人生に大きな影響を与えていることに、アメリカが背負い続けている負の遺産の重さを感じる。

 ユダヤ教についての記述は少なくなっているが、前2作に登場するユダヤ教のラビ、アーロン・シュルマンも大事な場面で登場し、揺れ動くデッカーの心を支える役割を果たす。あとがきには、はや8作までシリーズが刊行されていると書かれている。今度は1年半も待たせないでね。

 シリーズ3作のカバーに添えられた写真がきれい。

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