ハードボイルド・スクールデイズ 織原ミツキと田中マンキー

 異世界には行かないし、異能によるバトルも繰り広げられないし、少年と少女が出会ってドキドキとしたりドタバタとしながら恋を育むような展開もない。なるほど少女と少年が出てくるけれど、その間に等号で結ばれるような関係はない。あるのは引っ張り回され引きずり回されるような一方通行の関係と言って良い。

 きっと少女と少年の間に愛はあったのだろう。むしろ絶対に少女と少年は愛を感じ合っていた。それを口にできない寂しさと、容易には感じ取れない愚かさとがぶつかりあってしまったため、愛は形となって結ばれることにはならなかった。

 それでも、だからといって愛の虚しさを問う物語ではない。愛をどうやって確かめるべきかを感じ取らせる物語。そう思って読めば、鳥畑良による「ハードボイルド・スクールデイズ 織原ミツキと田中マンキー」(ノベルゼロ、680円)を一方通行の恋だと早とちりして、腹立ちまぎれにぶん投げたりするような行為へは至らない。あらかじめそう言っておく。

 12歳で父親とセックスし、兄ともセックスをした織原ミツキという少女と幼馴染みだった田中文紀ことマンキーは、その後も奔放に誰彼となくセックスをし続けるミツキに、振り回され続ける人生を歩む。

 セックスしても1回限りで後に付き合うことはなく、むしろ手ひどく退けることもあって恨みも買いやすく、迫ってくるものストーキングを繰り返すものが相次ぐ中、ミツキに親しい田中マンキーは、ミツキをセックスをしたい先輩に呼び出されてボコボコにされる。

 これはたまらないと空手を覚えたマンキーが、今度は逆にストーカーをボコボコにするといった繰り返し。そうやって中学の3年間を終えて高校に進学する時、いっぱしの不良扱いされていた田中マンキーは、誰も自分を知らない場所に行こうと一念発起して勉強をしてその近隣では最高の高校に入学する。ところが。

 勉強をしているようには見えなくても、常に学校で成績トップだったミツキも同じ高校に入っていて、そこでも続くボディーガード的な毎日を田中マンキーは送る羽目となる。スマートフォンを与えられ、呼び出されては助けに入るといった繰り返し。それは、マンキーを好いてくれているバスケットボール部のマネージャーが傍らにいてもお構いなしに発せする。

 そうやって行った先で殴られ、骨折をしてバスケットボール部では1年生ながらベンチ入り出来そうだったのも妨げられた田中マンキーは、ミツキを怒鳴って追い払って縁を絶とうとするものの、完全には絶てずにいる。

 そこがなかなか理解しづらいというか、やはりミツキが好きだったのか、幼馴染みとしての親近感から守ってあげなくてはといった思いが浮かんだのか、童貞を捨てたいという自分のはけ口に求めたのか。そのどれもが重なりつつ、どれでもない思いがあったのかもしれない。

 どこまでも奔放でセックスをし続けるミツキは、やがて本物のヤクザに絡まれ連れ去られようとする。助けに入った田中マンキーは、ドラム缶に詰められ海に沈められそうになる。そうまでされてもやっぱり駆けつける田中マンキーは、ひとつの出来事が終わって気付く。ミツキがどうしてそこまでセックスをしまくる少女になってしまったのかを。

 それが真実かどうかも実のところは分からない。本当にセックスが好きだったのかもしれない。とはいえ、どうやらミツキはセックスが好きそうではないところに、やはり田中マンキーが気付いた秘密があるのかもしれない。

 それに早く気付けていたら人生は変わったのだろうか。そして2人は健全な学生として歩みやがて一緒になれたのだろうか。そう思うと少し寂しくなる。愚かしいとも思えてくる。すべてが終わったあと、もう遅いとは分かっていても。だから。

 せめてミツキが自分を偽らず思い切り走り続けられたことを願う。マンキーがこれからをしっかりと歩き続けられることを願う。それが2人にとって大切なことだろうから。2人を見てきた読者にとって必要なことだろうから。


積ん読パラダイスへ戻る