はなひな
明るいおともだち計画

 眼鏡っ娘が正しいのは言うまでもないことだし、お下げ髪の正しさもまた絶対的。つまるところお下げ髪の眼鏡っ娘の正しさは、眼鏡っ娘魂の持ち主にとって、もはや動かしようのない事実であって、それは天が地へとひっくり返ろうとも、微動だにしないものである。

 などと妙に力んで一体どうしたのかと言えば、阪本良太の「はなひな 明るいおともだち計画」(集英社スーパーダッシュ文庫、552円)は、絶対にして永遠に正しい小説なのだということを、ここに高らかに訴えたいのだけれど、果たして万人の賛同が得られるかどうかは、中身に聞いてもらう方が良さそうだ。

 簡単に言えば「はなひな」は、その名もハナちゃんヒナちゃんという、どこからともなく現れた眼鏡っ娘でお下げ髪という、素晴らしくも羨ましいビジュアルを持った2人の”少女”を巡って起こる、大騒動を描いたポップで萌え萌えながらも根っこにSFっぽさもあったりする、読んで楽しく見て嬉しい作品だ。

 見て、というのは鈴見敦の描くイラストのことで、それはもうとびきりに可愛い眼鏡っ娘が描かれていて、おまけにハナちゃんヒナちゃんの2人が揃ってキュートでコケティッシュでファンスティックに描かれていて、手に取ってレジに運ぶ顔がニヤけてしまって店員にどういう種類の人かと、警戒されてしまう可能性がめちゃくちゃ高い。

 かくも愛くるしい彼女たちがいったい何者かと言えば、叔父の江頭圭一が経営している探偵事務所でアルバイトをしている少年・右京が、どこからともなく舞い込んだ依頼を受けて探していた、お下げ髪の可愛くってせいぜいが中学生くらいにしか見えない女の子、という条件にピタリと当てはまる人物として、街で見かけた2人連れ。

 そのあまりの愛くるしさに、ではなく条件との合致具合に右京は早速、ハナちゃんとヒナちゃんに声をかけたまでは良かったものの、突然の声がけに胡乱な相手と思われ即座に逃げられてしまってさあ大変、追いかけたものの中学生以下の背格好に見えて、2人ともなかなかの健脚で、追いつけずゼエゼエしていた所に今度は別の追っ手が出現して、ちょっとした争奪戦が繰り広げられる。

 そこをどうにか切り抜けて、2人をバイト先の探偵事務所へと連れて行って聞いた話がこれまた仰天。実は2人は……という種明かしからさらに先、聞くも驚きの展開が、日本とか地球といった枠組みを超えて、銀河の彼方へと向かい広がって行く。

 それがいったいどういうことかはやっぱり読んで頂くとして、そんなハナちゃんヒナちゃんをアルバイトに迎えた探偵事務所に、いよいよ元々の依頼主でもあった、小さい女の子のお友達にしか興味を抱けない財閥の御曹司の魔手が迫って、秋葉原から東京駅からお台場へと抜ける、躍動感のある追いつ追われつの大バトルがくりひろげられ、そして驚愕のエンディングへと至る。

 そこで明かされる真実といったら、いまだかつて経験したことのないくらいの衝撃度があって、可愛いなあと表紙を見てニヤついていた気持ちが瞬間、絶対零度からさらにマイナスへと冷え込み、人は見かけによらないものだと動揺させられ、嘆息させられる。ある意味とてつもなくインモラルな設定なのかもしれない。

 だからいったいどういうことかも、読んで経験して欲しいから詳しくは説明をしない。ひとつ言っておくとしたら、気が短く委員長タイプで怒るとビームサーベルを振り回すハナちゃんと、トロくて図書委員タイプですぐに迷子になるヒナちゃんの、後者に惚れるのはキケンかもしれない、ということか。そういうのが好きな人がいることもまた、否定はしないけれど。

 ハナちゃんヒナちゃんの魅力ばかりが楽しみどころではなく、ハナとヒナの家族に頼まれ、2人を捕まえるためにやってきたヴェルーダという少女の、能力はあってもどこか貧乏性でちょっぴりドジなところもあるキャラクターも楽しいし、江頭の元部下で、今は独立して事務所を構えて金の為にかつての仲間を裏切る潔さを見せる、松下奈央というナイスバディな女探偵もなかなかに麗しい。

 それでもやっぱり中心はハナちゃんヒナちゃんの2人の眼鏡っ娘。そのビジュアルと正体に触れて、おおいに喜び浮かれして肝を冷やしていただきたい。眼鏡っ娘は眼鏡っ娘であるという、そのこと自体を至高のものと受け入れ、他をいっさい問わない度量を持つ筋金入りの眼鏡っ娘好きには、いわずもがなに究極の小説と言えるだろう。

 あなたの眼鏡っ娘魂が試されている。


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