girls don’t cry
展覧会名:girls dont cry
会場:パルコミュージアム
日時:2003年4月29日
入場料:700円



 「パルコミュージアム」で「girls don’t cry」という展覧会が開かれていると聞いて、思い浮かべたのは「女性ばかりの展覧会? それって『東京ガールズブラボー』なんかといっしょじゃん、ということだったけれど、現地に到着してのぞいたギャラリーには、奈良美智とか会田誠なんて現役バリバリの男性作家の作品も混じって置かれていたから、決してガーリーなアーティストをブラボーする展覧会ではないらしい。

 だったらいったい何だと調べてみると、どうやら女性をモチーフにした作品を集めた展覧会だってことらしく、なるほど並んでいる作品はどれも女性が描かれていたり映像として撮られているものばかりで、その見目麗しさに堪能しまくれたかというと、確かにそういった部分もあったけど、そればっかりではなかったところに、下世話な興味だけでは計れない展覧会としての奥深さがあると言えそう。

 もちろん会田誠の作品のように、女子高生のように見える美少女の、手と足が切断されて「バイオレンスジャック」に出てきた「人犬」のようにされている絵の3連作は、女子高生を虐待してみたい気持ちを、ガングロでもなければルーズソックスでもなくザク足ではもちろんありえない、超絶理想化された容姿の女子高生でもって絵にしてくれていて、心の欲望を刺激される。けれども同時に、心に仕舞ってあった欲望を引っ張り出される感じもあって、正対していていろいろと考えさせられる。

 なにしろ来ている観客は女性ばかりだから、その中でオンナノコのハズカシイ姿を正視することは大変なもの。これは芸術だと気力を周囲に発散させても、通り過ぎる女性たちは絶対そうは見てくれない。かといって俺はこういうものが大好きなんだと笑いながら見る訳にもいかず、針の筵に座った上からパイルドライバーで頭を叩かれる感じに全身がキリキリと痛む。男の欲望を見透かされている、というか。

 同じことは上半身裸の女性が巨大な男のボクサーを相手にロッキーのテーマにのってボクシングをするという、ワラ・タイカとかいう作家の映像作品「Power」にも言えて、その両のバストの揺れまくる様に、胸ってあれでなかなか柔らかいものなんだなあ、なんて感動するのはそれとして、仕切られた部屋の中に女性が入ってきたら、何て顔をしようと通り過ぎる足音に耳そばだて心臓をドクドクさせてしまう。

 男性の受け止め方はそれとして、一方で女性が会田さんとかこの「Power」を見てどう思うのか、どういう捉え方をするのかも知りたいとろではある。ちなみにタダ券があったとかいって来たらしい若い母親と小さい息子は展覧会場を「タダだからって来るものじゃないわね」って足早に通り過ぎて行ったのには、当然ながらも少しがっかり。若い内から鍛えれば立派にアーティストとして大成するのに、女子高生をミキサーに入れてかき回すとかする。

 若手のガーリー系アーティストでは実力も人気も活動歴も既にひとかどのタカノ綾は、新作のペインティングにドローイングを何点か出展。正確なタイトルは忘れたけれど角度によって色が違ってたビルをバックに少女が歩いて後ろでなぜか大きなダチョウみたいな鳥が立ってる不思議な絵が、とってもシュールで、なのにどこか暖かくって良かった。構成力の勝利とも言える作品。あと水墨画の秋冬山水図をバックに少女が立ってる変わったモチーフの作品もあって、どういった心境から生まれたものか気になる。

 ドローイングでは動物と裸の少女を組み合わせたモチーフの作品が何点もあって中でもカバがわらわらと集まっている作品が見て賑やかで気に入った。ドローイングなのにどれも色が鮮やかで、まんま飾っても存分に美しい作品ばかりなのは驚いた。絵の具が良いのか紙が特別なのか。いずれにしても確実に腕を上げていて、遠からずメジャーなシーンでも注目を集めることは確実だろう。というより注目しろ、メジャーなメディアは今すぐに。

 他に小山登美夫ギャラリーの個展で見た、人形を作って写真に撮ってそれをもとに絵を描くという不思議な段取りを採る加藤美佳の、前に見たことのある「カナリア」が飾ってあって、その不思議なリアルさにゾクゾクさせられる。人形の生硬さと人間の生々しさが入り交じった不思議な感じ。触れると固いのか柔らかいのか、暖かいのか冷たいのか。重ねた作業のみが生み出す質感に誰もが絶対に何かを感じるだろう。

 ほか、以前に奈良美智がピックアップした人たちで開かれた展覧会の中にあったか、「東京都現代美術館」の集合点で見たかした村瀬恭子というアーティストの、筆でカンバスに絵の具をなでつけるようなタッチで、女性像を浮かび上がらせている作品も、まとまった数がみられるのが良い。イラストっぽい作品が多くなりがちな中にあって、アートとしか言いようのないタッチの純粋さに打たれる。

 エレベーターガールの集合写真を経て女性の願望を写真の世界で現実化させる写真シリーズを展開して来たやなぎみわは、そういった女性の願望を特殊メイクで実現させてから写真に撮る作品の延長に見える「GEISHA」1点で勝負。女の業の強さ欲の深さ、なのに嫌悪感より親近感がわく不思議な感じがそこから伺える。女性アーティストでは既に御大の草間彌生の、ポップなイラスト調作品がオブセッションの水玉で埋め尽くされた他の作品とはちょっと違っていて珍しく面白い。

 女性のアーティストパワーを見せるんだ、といった感じで村上隆が目に付いたアーティストをピックアップして展示する「東京ガールズブラボー」が、村上隆という現代では希にみて知名度のあるアーティストの名前を通して、新しいアーティストを世に届けるって役割を持っているのは分かるし事実、その結果出てきたアーティストもいるにはいるけど、これほどまでに村上隆の名前が立ってしまうと、新進の女性アーティストをまとめて送り出す行為そのものが、村上さんの半ば”作品化”してしまう感じがあって、村上隆の名前をより高める一方で出てきたアーティストの名前が、背景に後退していまう可能性も考えている。

 その点で「girls don’t cry」は、女性の描き手が奈良、会田さんといったメジャーな名前に混じってはいても並立的に、むしろより2人を乗り越え前面へと飛び出して提示されている感じがあって、見れば誰しもの記憶に誰かが残りそう。何で女性の描き手なのか、何で女性がモチーフなのかといったカテゴリーへの押し込めへの疑問を抱く人も出そうだけど、描かれているモチーフが放つ生々しさ、力強さは男性がモチーフではやっぱり感じが違ってしまうだろう。モチーフについて考えるべき展覧会であり、モチーフについて同時に感じるべき展覧会、なのかもしれない。


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