バックミンスター・フラー展
展覧会名:バックミンスター・フラー展
会場:ワタリウム美術館
日時:2002年4月14日
入場料:1000円



 春の陽気に誘われて、やって来たのは外苑前の「ワタリウム美術館」。えっと何時以来なんだろうかと考えたけれど、思い出せないくらいにしばらく来ていなかったのは関心が何だか自分を高級そうに思える現代アートよりも、等身大に楽しめるオタクな方に向いてしまっていたからなのかもしれない。まあそうやって、現代アート=高級だなんて考える頭があるから何時まで経っても真っ当な視線で、その神髄をとらえられずに上っ面の面白さのみで現代アートを語ってしまいがちな、素人以下の下司野郎であり続けてたりする。なんて見方事態がそもそも純粋じゃないんだけど。

 その意味でとらえるなら「バックミンスター・フラー展」は見た目で分かり意味の方でもまあ理解の範疇におさまる展覧会、だと思ったけれど突き詰めれば結構奥とか深そうだったりする辺り、やっぱり一家を成した人は一筋縄ではいかないものだと実感させられる。バックミンスター・フラーという人は、正三角形を組み合わせて球形にした「ジオデシック・ドーム」こと通称フラー・ドームを提唱した工業デザイナーで建築家でアーティスト、といったところで、その業績が広く伝えられている有名人。展覧会にはそんなフラーが過去に手がけたり構想した仕事が模型や写真や映像なんかで展示してある。

 何10階にもなったビルを巨大な球形で覆った仕事とか、SFなんかに出て来そうな建築物も中にあってレトロフューチャーなイメージをかき立てられた。階数こそ少なくはなったけど中に建物を置いたドームは1967年の「モントリオール・エキスポ」で「エキスポ・ドーム」として実現してるから、決して単なる夢ではなかったんだけど。その辺りがただ構想するだけの人とは違う、現実においてどれだけの成果を残せるかを考える工業デザインの人、ってことになるのかな。

 未来的なイメージで言うなら「ウィチタ・ハウス」というアルミの屋根で覆われた円形の建物があって、1946年なんて大戦後まもない時期に考えられたとはちょっと思えないくらいに先鋭的なフォルムをしているんだけど、工場であらかた作られたものを現場に運んで組み立てるっていう、今のプレハブ住宅の仕組みが今のプレハブ住宅なんかよりよほど格好良いスタイルで、ほとんど実現可能なレベルで思考されてたって辺りもやっぱり凄い。製造に完璧さを求めたが故に実現しなかった、という部分も含めてフラーのこだわりぶりが感じられる。

 それより昔の1929年に設計された「ダイマクション・ハウス」は、中央の柱からワイヤーで吊った6角形の床の上に部屋を作る構想がさらに先鋭的。中央の柱の強度やそこから下げるワイヤーの強度の維持が上に屋根とか壁とかを積み上げていく普通の建築よりも安価で簡単かは、建築の専門家ではないから分からず、フラーの構想がそのままの意味で幅広く受け入れられたかは伺い知れないけれど、もしも実現していたら、そしてそんな建物がより大きなスケールで実現するようになったとしたら、地面からタワーがただニョキニョキと生えているだけの建築の風景も、きっと今よりもっと面白味のあるものになったのではないだろうか。

 建築も凄いけどもっと凄かったのが、工業デザイナーとしてのセンスを存分に発揮して設計した「ダイマクション・カー」というシロモノ。カー、とあるから自動車だたということは分かるけど、1933年なんて未だアメリカではクラシックな馬車型の車が走っていたんじゃないかと思わせる時代にあって、その形を見て自動車だとすぐに思った人はいなかったんではなかろうか。蒸気機関車と新幹線の700系を並べて同じ列車と分かる人がいないように。

 前2輪で後ろ1輪でエンジンは後ろにあって前輪を駆動させ、操縦はハンドルで後ろの1輪を左右に舵のよーに振って行う仕組みになっているんだけど、シャーシに被せた流線型のボディの「ダンガンレーサー」(タミヤが「ミニ4駆」の後に出した車の玩具。半円状のコースを走らせて遊ぶ。カッコ良いんだこれが)っぽさも去ることながら、ニュース映像として残っている運転の場面で車体のほとん先っぽを軸の中心にして1点をぐるぐると回ってみせる最小回転半径の小ささに仰天する。

 前輪を軸にバイクでやるスリックターンを自動車でいとも簡単にやってみせていて、これだとどんな狭いロータリーでも細い道でも簡単に方向転換して進んで行けそう。シャーシの設計からエンジンの配置までおそらくは1人で設計しただろうから、こうした効果をあらかじめ予測して作ったに違いない。あるいは街で何度も切り返してUターンする大きな自動車を見て、どうやったらもっと簡単に回れるよういなるんだと考えて編み出した必殺技、だったりするのかな。今からでも遅くないからどこかの車メーカーに、作って試して頂きたいところ。玩具のタカラが「チョロQ」みたいな電気自動車を作るご時世、本家ミヤが実物大「ダンガンレーサー」として作れば面白いんだけど。


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