FLOWERS
展覧会名:FLOWERS
会場:西村画廊
日時:1996年4月27日
入場料:無料



 空を撮り雲を撮り街を撮り女を撮る。東京を撮りニューヨークを撮り大阪を撮り沖縄を撮る。撮れるものなら何だって撮るのが荒木経惟。被写体を選り好みはしないし、被写体からも選り好みされない魅力を持った当代1の写真家。それが荒木経惟だ。

 そんな彼が「花」を撮った。えっ、似合わないなあ。花なんて綺麗キレイした被写体、荒木が撮らなくたって、たくさんの人が撮ってるじゃない。やっぱ女だよ、オンナ。アラキの写真はオンナが写ってなくっちゃツマラナイよ。そう考える人もいるだろう。ならば見よ。荒木の撮った「花」は、荒木以外に撮れない「花」なのだ。有機体の持つ、生命体の持つ、生殖器の持つ毒々しさと神々しさを、荒木はものの見事に印画紙に定着させて、僕たちの前にさらけ出してみせてくれる。

 「エロトス」という写真集にも、モノクロで撮った花の写真がいくつか治められているが、今回、西村画廊で開かれた「FLOWERS」は、出展された写真がすべてカラー。会場の3方に40点ほどの写真がピンで止められて飾られており、真ん中にたって3方をぐるぐると見渡しながら、花々が放つ毒々しいまでの妖しさと、神々しいまでの美しさに、しばし呆然とさせられた。

 綿密な思考の果てにフォルム化された「生け花」ではない。無造作に花瓶やコップに差された花々を、無意識にバシャリと撮っただけのような写真に見える。だが、その絡み合った茎や葉や花弁が、写真にある種のナマナマしさを与えていて、見る者に迫って来るような印象を与える。荒木の撮る写真は、その被写体が何であれ、被写体の持つ「美」とともに、「媚」までをも引きずり出すのである。

 1枚20万円という値段は、荒木の写真にしては格安だ。大股びらきの女でも、どんより曇った東京の空でもなく、瀟洒な家の壁に飾っておけるだけの被写体でもある。何よりあの色だ。1000円で売っていた写真集には、あの色、あの艶やかな色がこそぎ落とされている。実物とコピーの差というしかない。手元におけない悔しさに、いつか荒木の写真で部屋の壁を覆ってみせると、心に固く誓う。
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