ファナティック・ブレイクスルー

 温める力と冷やす力の、いったいどちらが生活に便利なのか。ただ温めるだけなら電子レンジがあれば良いし、冷ますなら冷蔵庫に冷凍庫が存在する。急速に一部だけを温められたり、一部だけを冷やせたらそれは便利だけれど、温めすぎて燃えたり溶けたり、冷ましすぎて凍えたり砕けたりしたら意味がない。

 温める力と冷やす力の、どちらがどれくらいあったら生活に便利なのだろうか。そんな風に異能の力に対する考えを誘ってくれる物語が、真慈真雄の「ファナティック・ブレイクスルー」(一迅社文庫、619円)だ。

 強烈なストレスが「E.X.I.T」と呼ばれる一種の超能力を発動させるくらいになった近未来が舞台。そこで穂村陽という少年は物体を熱する力が覚醒し、そして氷上静音という少女は逆に冷ます力が暴走気味に覚醒しては、小学生の頃からいろいろ問題を起こしてしまっていた。激しく発動すれば自分すらも凍らせてしまうような静音の能力。そこを幼なじみの陽がうまく抑え、導いていた。

 成長するに従って静音の能力も暴走することはなくなり、静音と陽と同じ高校に進学しては、何でも味が分かってしまうという能力を持った飯綱真菜とか、気配を消す能力を持った、本当は少女だけれといつも詰め襟姿の飯綱忍といっしょにグダグダしたと学園生活を送っている。

 静音がコンビニで買ってきた弁当を陽が温め、逆に陽が買ってきたペットボトルを静音が冷やすと言った具合。電子レンジ代わり、冷蔵庫代わりの使い方とは勿体ないところではあるけれど、そこは高い能力者たち。力の加減を誤れば弁当は焼け落ち、ペットボトルは粉々に砕け散る。そんなやりとりもまた日常になっていた学園での日々が、「ファナティック・ブレイクスルー」ではストーリーとして綴られる。

 特に力は覚醒していないけれども、それを疑われることもあっただけに、妙な威圧感を持って全校を締め上げている生徒会査察部の水戸仁美も加わって繰り広げられる学園の日々は、真菜が料理部の先輩たちと部長の座をかけ対決しようとして、そこに陽や静音が絡んで滅茶苦茶にしてしまいそうになったり、勉強があまり追いついていなかった静音のために、みんなで集まって勉強会を開いたりといった、学生らしいエピソードが重ねられていく。

 そんな日々でやっぱり中心になるのが静音で、アイスクリームショップにアルバイトに出て、絶好の職場だと誰もが思ったものの、生来の人見知りが出てしまってうまく接客できず、商品のアイスクリームを凍らせてしまったり、ヒーローショーに飛び込みで参加して悪の幹部役を演じたものの、興が乗りすぎて床を凍らせてしまい、ヒーローたちが動けなくなってしまったところを、陽がヒーローに入って飛び込んで抑えたり。

 それこそ能力だけなら絶対零度の魔女を地でいけるくらいの凄さなのに、それが他人を傷付けてきた過去があり、今も迷惑ばかりかけている弱みが人見知りに拍車をかけて、仲間たちの間でも自分は不要だと思われているのではと感じて、余計に気持ちを沈めてしまう静音。だからこそ頼りにしている陽だけれど、そんな静音の気持ちに気づいているようで気づいていない陽に、静音が苛立ち寂しがり哀しみ逃げ出す場面へと続いていく。

 孤独感に苛まれ、ひとりでぽつねんとしているところに現れ慰める陽の、それは幼い頃から続いている一種のルーティンなのか、それとも真剣な恋心なのか。そんな辺りが展開の鍵。いよいよせっぱ詰まって発動し過ぎてしまった静音の能力を前に、命の危険を冒してまで陽が向かっていく場面を見れば、陽の気持ちも瞭然として見えてくる……。

 かというと、やっぱりどこか曖昧なところがあるから静音にとっては釈然としないところ。妹的な感情でも面倒は見るものだし、命だってかけようとするものだから。果たしてどちら? そんな関係を探りながら、自分なりの結論を出してみるのも面白いかも。それは自分と誰かとの関係を見つめ直す機会になりそうだから。

 それより興味が浮かぶのは、陽と静音が全力を出し合いぶつかり合ったら、いったい溶けるのかそれとも凍ってしまうのか。雨女と晴男の対決にも似た「ほこ=たて」的なシチュエーション。その行方も知りたところ。続き、出て欲しいなあ。


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