エートスの窓から見上げる空 老人と女子高生

 半地下になった倉庫の前に続く廊下から見上げると、窓があってそこを女子高に通う生徒たちが歩いている。外からは地面とギリギリのところに切られた細長い窓は、中からはちょうど少女たちを真下から見上げる形になって、スカートから伸びた細かったりふくよかだったりする足や、その奥が見えそうだったり見えなさそうだったりする。

 そんな体験ができる場所を偶然にも発見したのは、蓬ヶ原学園女子高校に入ったもののクラスメートたちとあまりなじめず、昼休みはひとりお弁当を食べる場所を探して歩くような瀬宮憂海。その日も学校内を彷徨って、ひとりになれそうだと入った場所が、実は可愛い女の子が大好きな憂海にとっては天国のような場所だった。

 つまりは見上げたら外を行く女子の足が見えるという場所。そのことを知って食べかけのウインナーを口から吹き出すほどに驚き、幸せな気分に浸っていた憂海だったけれど、そこに意外な闖入者、そして実はその場所においての先達が現れた。豊橋巌蔵。憂海が通う女子高で物理を推している老教師だった。

 そんなイントロダクションを持っているのが、かめのまぶたによる「エートスの窓から見上げる空 老人と女子高生」(ファミ通文庫、600円)という小説。サブタイトルの老人にあたる人物で、ひょうひょうとした授業ぶりからゲンじいと親しまれ、女子高生対の評判も悪くなった巌蔵は実は見かけによらず助平で、半地下の廊下から女子高生の足を見上げて楽しむ昼休みをずっと続けていた。

 せっかくたどり着いた天国のような場所を巌蔵に奪われたくない。かといって巌蔵を追い出すことなんでてきない葛藤の中から、憂海は巌蔵といっしょにお昼のひとときを共にそこで女子高生の足を見上げて過ごすことになった。そんな交流の中で憂海は、学校に起こる不思議な出来事を厳蔵に相談するようになった。

 学校でも屈指の美少女として知られる1年先輩の倉戸園実が、学校を出てたらレンタルビデオの店に入って何も借りずにぐるりと回ってすぐ出たり、カフェに入ってやっぱりすぐに出たりと不思議な行動を繰り返す。美少女が大好きな憂海が後をつけてはその不思議な行動を巌蔵に尋ねるものの、エドガー・アラン・ポーの短編「群衆の人」を持ち出して謎めいたことを言うくらいで正解は示唆しない。

 もっとも、ダイエットのためとか指摘する憂海の言葉には異論と唱える。いったい倉戸先輩は何をしているのか、いろいろと想像をめぐらせ偶然に見かけた画像の助けもあってその理由に気づいた憂海。巌蔵に確認をして、自分は嫌いだった種類の存在だったその“正体”がどういったものをかを知るため、憂海は倉戸先輩に会いに行く。

 続いて、晴れてお近づきになった倉戸先輩がなぜか興味を持ったパリピ部なる不思議な名前の部活動、実際はパーティーピーポーになった気分で楽しむ部活動で起こった、部長が消えてしまったという謎に憂海は挑むことになる。残された大きめのペットボトルと、自分自身が過去に経験したいじめとも少し関わる経験から、たどり着いた消失の真相のその先で、憂海はその時の気持ちに任せて離別して後で後悔することを訴える。

 今ならまだ間に合う。だからわだかまりを捨てて突き進め。そんな勢いを持った少女だからこそ倉戸先輩も気に行ったのかなあ、圧倒的な美少女なのに憂海を連れ回して池袋に行き、串○物語なる串揚屋に入り乙女ロードで同人誌を買いあさる、ということは腐女子なのか倉戸先輩、美少女なのに。それはあまり関係ないか。

 巌蔵が学校に来なくなって、どうやら入院していると分かって憂海がその病院を探し当てるというエピソードも、日々の会話の中からつかんだ巌蔵の暮らしている場所と、そこにあるだろう病院から、もっとも最適なところを選んでたどり着く展開に推理がある。その病院で、巌蔵から学校の生徒が尋ねてきたら出すようにと、看護師に託されていた問題をあっさり解いてのける憂海は凄いけど、それはほとんど物理の問題で、よく解けるものだと感心もする。もしかしたら優秀なのかもしれない。

 学校という場所で女子高生をやりつつも、ちょっと浮いてしまったひとりの少女が、ひょうひょうとした老人のサジェスチョンと美しい先輩の導きもあって、毎日をどうにか楽しく生きていく。喜びは見つけることができるし、止まっているより進んだほうがそれは見つけやすということも教えてくれる、そんな青春ミステリーだ。


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