ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか

 願えば想いは必ず届く、かもしれないし、そうでないかもしれない。

 大森藤ノという人による、第4回GA文庫大賞にして初の大賞受賞作「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」(GA文庫、620円)は、神様たちが退屈凌ぎに地上に降りては、「ファミリア」なるものを作って人間に力を与える代わりに、その力で稼いでもらい、食わせてもらう関係が出来上がった世界が舞台のファンタジーだ。

 すでに多くの神様は、「ファミリア」を冒険者たちの組織にして、オラリオという迷宮都市にあるダンジョンへと構成員を向かわせては、モンスターを狩らせてそれから出る魔石を金に換えることで収入を得ていた。人気のある「ファミリア」は構成員も増え腕っ節の良いのも多くいてなかなかの稼ぎっぷり。そこに普通の人間がいきなり入ろうとしてもなかなか入れない。

 だから主人公のベルという少年も、「ファミリア」に入って美少女たちと出会いたい、仲良くなりたいと願って地方からやって来たものの、どこの「ファミリア」からも入団を断られ、困って街をさまよっていたところで、誰も構成員を持っていなかったヘスティアという少女の姿をした神様に出合い、誘われて一も二ものなくその傘下に入った。

 ヘスティアにも事情があって、天から来たもののずっと知り合いの神様のところでゴロゴロしていて構成員を作らずにいたものだから、業を煮やした知り合いの神様に働けとばかりに叩き出されたばかり。実績もない神様に構成員はつかず悩んでいたところに、飛んで火にいるベル少年、2人の思惑が合致して関係が結ばれ、ベルはモンスターを狩るくらいの力を得て、ダンジョンへと入る毎日を繰り返していた。

 とはいえ、やはり素人がなったばかりの冒険者では、ダンジョンに入ってもたいして稼げず、それ以上に自分よりレベルの上なモンスターに遭遇すれば、殺される可能性も大。実際に迷い込んだちょっとだけ深いダンジョンで、突然現れたそのフロアですらあり得ない強さを持ったミノタウロスに遭遇し、追いかけ回され死にそうになっていたところを、別の「ファミリア」に所属する美少女剣士、アイズ・ヴァレンシュタインに助けられる。

 その強さ美しさに一目惚れしてしまったベル。けれども「ロキ・ファミリア」で幹部まで務めるアイズ・ヴァレンシュタインとベルとでは、「ファミリア」が違っていてそれはは讃える神様が違うということで、一緒になることも付き合うことも難しかった。それでもアイズ・ヴァレンシュタイン思い続けるベルを、複雑な心境を抱きながら見つめる目がすぐそばに。それがヘスティア。見た目はロリだけれど胸は大きく可愛らしいヘスティアを、けれどもベル君は神様だと讃えて、恋人のようには見ようとしない。

 ヘスティアはそれが不満で仕方がない。自分が力を与えて送り込んだダンジョンなのに、そこで出合ったアイズ・ヴァレンシュタインに心を向けてしまうというから腹立たしい。なおかつベルの力には、そうした懸想の大きさが力量になって現れるという仕掛けもあって、ダンジョンでアイズ・ヴァレンシュタインを思い、あるいは街で世話になった飲食店の娘を思い、ダンジョンの受付にいる世話人のエルフを思ったりしてナイフを振るうごとに強くなっていくベルを、神様は頼もしく思う一方で、自分から離れていってしまうのではと寂しく切なく思っている。

 なんという贅沢な。なんという罰当たり。3日3晩土下座してヒュパイトスという武器作りが得意な神様にお願いして、ベル専用のナイフを作ってもらうくらいの惚れっぷりが届かないヘスティアがどうにも健気で可愛らしい。そこに気付いてベルがヘスティアと向き合う時がくるのか、それともやっぱりアイズ・ヴァレンシュタインとの「ファミリア」の垣根を超えた恋慕を成立させるのか。彼の願いは女の子と仲良くなりたいというもの。かなえば嬉しい。嬉しすぎる。

 一方でヘスティアも自分の「ファミリア」に入ってくれたベルが愛おしくて仕方がない。ずっと自分だけを向いて欲しいと願っている。その願いはかなうのか。ベルを狙って妖しく立ち回るフレヤという魅力が力の神様もいたりして、ベルもヘスティアもその前途はなかなかに多難そう。それでも幸せになって欲しいもの。ベルにも。ヘスティアにも。それはどんな形でかなうのか。見守ろう。その時を。


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