クロス・コネクト あるいは垂水夕凪の入れ替わり完全ゲーム攻略

 これはクールだ。そしてキャッチィだ。

 第13回MF文庫Jライトノベル新人賞で佳作となった久追希による「クロス・コネクト あるいは垂水夕凪の入れ替わり完全ゲーム攻略」(MF文庫J、580円)は、かつて裏ゲームで勝利したものの勝利条件があまりにも苛烈で、心を壊してしまった少年の垂水夕凪が、スマートフォンのふとした操作のミスによって見知らぬオンラインゲームの世界に、プレイヤーとして引っ張り込まれてしまったことで物語が動き出す。

 ゲームの世界で夕凪が得たボディは美少女で、春風という名がつけられていてそのステータスは“姫”だった。なおかつそのゲームは“姫”を狩ることが最大の目標になっていて、夕凪=春風はゲームの世界で、他のプレイヤーから追われる身になってしまう。

 もっとも“姫”だと露見すればの話で、誰からも気付かれない中で夕凪が、自分の手持ちのカードを見極めひとまずゲームから「脱出」すると、なぜか自分の身体がさっきとは違う場所にいた。おまけに泣きながら走って行ったという姿を幼馴染みの佐々原雪菜に目撃されていた。

 何かが起こっている。再度ゲームの世界に身を転じて春風という少女になるという繰り返しの中で、夕凪はゲーム内で春風を操っている人格が、現実世界の自分と入れ替わっていることを知る。

 だったら元に戻ったところでゲーム内の誰かを見捨てれば終わりかというと、それで自分の人格がどうなるか分からない不安があり、また人間の少女のように振る舞う春風を見捨てることも辛かった。だから夕凪は何が何でもゲームを攻略しようと動き出す。だがそのクリア条件はあまりにも厳しかった。

 提示された条件を読み込み、それこそ針の穴よりも細い可能性を突き詰め、少しずつゴールへと近づいていくところにパズルを解くような面白さを味わえる。もっとも、そうやって手に届きそうになった希望が叩きつぶされる事態が起こって、もうクリアは不可能といった状況に陥る。

 それでも憤りつつ諦めようとしない夕凪が、絶対にクリア条件を残しているだろうゲームマスターの性格を読み、それを探って身を春風の中に入れ、正体を夕凪と知りかつての裏ゲームで敗北した汚名をそそごうと挑戦してくるプレイヤーの相手もしながら、とてつもなく細い条件を手繰ってクリアを目指していく。

 手持ちのカードによって発動される能力の組み合わせ、あるいは明示された勝利条件の裏などを思考して察知して勝利の可能性を探る展開は、ゲーム小説でありミステリでもあり異能バトルでもあってと様々な要素を味わえる。夕凪が見つけ出した解答にそんな道があったのかとも驚けるけれど、それでもなおクリアできなかった難題を、どうやって逆転するかといった楽しみがラストにあって、そうかそうだったのかと驚ける。

 川原礫の「ソードアート・オンライン」のような、ゲームをクリアできなければ自分の肉体までもが死んでしまうといったデスゲームのシリアスさはない。ただ、自分以外の“人格”に対してひとたび感情を抱いた時、それが失われることを許容できるかといった問いを投げかけられ、考えさせられる。

 ただのゲームのキャラクターだからリセットなんて平気という人もいれば、手に入れた艦娘はひとりとして撃沈させたくないと思う人もいる。たとえそこにAIによる人格めいたものが乗ったとしても、しょせんはビットの集合に過ぎないと割り切れるのか、それとも違うのか。いつか現実にAIの人格が生まれてきた時に、改めて問い質されるだろう事態への練習問題としても読めそうだ。

 ひとまずの大団円となったものの、相手は過去に1度、廃人になりながらもゲームをクリアした夕凪に執着して新たなゲームをぶつけてきたほどしつこいゲームマスターだ。きっと次の手を繰り出し襲ってくるだろう。その中で夕凪が新たに得た仲間たちとどう戦っていくか、そこに異色の存在とも言える春風がどう関わっていくかが今は気になる。続編を期待したい。


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