カレンダーがーるずOVER!

 それを既視感と呼ぶならば、浅倉衛の「カレンダーがーずる OVER!」(エンターブレイン、640円)は既視感にあふれまくってる。例えば「天地無用 魎皇鬼」で見たビジョン。木造ながらも宇宙を航行する能力を持った船に、和装の女性たちが乗り組んで、遠く離れた星へと婿を探して旅をしている光景はは樹雷船を思い出させる。あるいは「うる星やつら オンリー・ユー」。幼い頃に交わした婚姻の約束を果たすべく、エルは宇宙を渡って宇宙船でやって来た。挙げげれば他にも果てしなく続く、宇宙や異世界や異次元や過去や未来からの押し掛け同居物の系譜に、「カレンダーがーるず OVER!」も連なるだろう。

 そして登場する少女たちもやはり、既視感を覚えさせる類のものだと言える。ほわほわとしたヒロインの周りに謹厳実直なお姉ま風美少女がいて、性格やや緩やかな眼鏡っ娘がいて、少年かと思われそうなスレンダーな美少女がいて、寡黙ながらも天才の幼女風美少女がいる、といった陣容がそのままずばりと当てはまる訳ではないけれど、例えば「ジオブリーダーズ」の神楽総合警備の面々でも良いし、「宇宙戦艦ナデシコ」のテンカワ・ユキトを囲むミスマル・ユリカを筆頭とした女性陣たちでも良い。それとなくまたそこはとなく、キャラクターの配置に重なる部分を見いだせる。

 だからどうだという筋合いのものではない。かくも既視感を覚えさせるということはつまり、過去に既視感を抱かせるほどに似た話が山積みだったということで、それはすなはち過去より現在に至り未来に続く歴史の上で、多くが支持し求めた話だということでもある。メンバーにしても然り。「ゴレンジャー」の昔より熱血にニヒルに肥満にに子供に女性が戦う5人組の基本だったのと同様に、お姉さまがいて眼鏡っ娘がいて少年風がいて寡黙な幼女がいたりするのはこ美少女軍団の定番にして決定版。外す訳にはいかない。

 むしろそうした設定の上で、どういった物語を繰り出せるのかが作者の力量ということで、ひるがえって見て浅倉衛「カレンダーがーるず OVER!」の場合、過去の類似の作品に比べて幾らかの差異があり、工夫もあって楽しめる。ひとつが木造の宇宙船。生きている船の、その樹液を吸って共生している宇宙昆虫がいる、という設定は樹雷船にはない要素だし、船を操っている面々が、かつて人類を創造したものの、その気まぐれさから人類を滅ぼそうとしたものの事情があって果たせず、遠く宇宙の果てへと追いやられ、いずれ人類を討ち滅ぼしに戻って来るだろう創造主を相手に地球を護っているって存在だ、という部分も目新しい。

 それよりさらに新しいのは、七曜艦隊の5番艦、「木曜艦」を司る少女の木邑日女に見初められた小橋勇太が与えられた力に戸惑いつつ、突如おしかけて来た少女に焦りつつ、着実に進歩を遂げて来るべき創造者を討ち果たす、といった有り体な話になっていないという点。この巻で勇太が争うのは、幼なじみで同じ道場に通って剣術の腕を競い合ったライバルの少年玖珂千秋。彼もまた本来だったら地球を護る「水曜艦」を司るアリーチェに見初められた身として、勇太と同じく輝士となって輝神を駆り、来るべき創造者の来襲に備えるはずだったものがなぜか、「水曜艦」を衆目の目が触れる場所へと引っ張り出しては、人類の服従を迫り創造主になり代わって鉄槌を下そうとしていた。

 背景にあったのは玖珂の勇太への激しいライバル心。優れた剣術の腕前を持ちながらもその怜悧な性格が疎まれてか、ことあるごとに勇太に晴れ舞台を奪われて来た玖珂が「水曜艦」とそれを率いるアリーチェの力をバックに、これまでの鬱屈を晴らそうとしたものだった。止めに回るべきアリーチェも何故か玖珂の言うなりになって人類への脅迫に荷担し、「木曜艦」に敵対する。無理矢理「水曜艦」に連れて来られて日女との間も決して相思相愛ではなく、ぎくしゃくとしたまま輝神を自在に操るに任せない勇太に対し、一致して迫ってくる玖珂とアリーチェのコンビ。未来の創造者との戦いより以前に、勇太は玖珂という幼少の頃からのライバルを、日女は姉のように慕った同じ七曜艦隊を司るアリーチェを退け、地球に再びの安寧をもたらすことができるのか。広大で深淵な宇宙を舞台とする、人類とオーバーロードとの戦いを前に、道場のライバルという言ってしまえば身内どうしの狭くて小さな争いが繰り広げられる。

 世界設定の根幹を成している、対創造主との壮絶であるだろう戦いへの、可能性なり端緒なりを見せてもらえれば今は既視感にあふれている物語に、まるで違ったビジョンが与えられそう。それを頂いた上で勇太と玖珂の未決着なライバル関係を軸にして、物語が進んでいくならば構わない。例え既視感にあふれていても、それゆえに読んで感情移入をし易いバラエティーに富んだ女性陣たちの、なおいっそうの活躍もあわせて期待しながら、どういった展開を見せるのかを今はじっくり腰を据えて見守ろう。


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